中沢啓治、池田理代子、川崎のぼる、水木しげる、梅本さちお(原作:福本和也)、比嘉慂著。金の星社刊。
タイトルのとおり、沖縄戦と原爆投下を扱った短編漫画を集めた本ですが、正直、沖縄戦の漫画のレベルがちょっと低いかも…。
収録作品は「赤とんぼの歌(中沢啓治)」、「真理子(池田理代子)」、「黙祷 初枝〜その夏・8月9日〜(川崎のぼる)」、「沖縄に散る〜ひめゆり部隊哀歌〜(水木しげる)」、「ああ沖縄健児隊(梅本さちお/原作・福本和也)」、「ワラビムヌガタイ〜子どもが語る〜(比嘉慂)」です。
タイトルで見ればわかりますが、「黙祷」までが原爆物、以降が沖縄戦です。
中沢啓治さんの「赤とんぼの歌」は、ちんどん屋のおじさんが、もろに「はだしのゲン」の平山さん(隆太たちの親代わりの元新聞記者)でしたが、おじさんがなぜ、「赤とんぼ」だけを吹き続けるのかというエピソードは相変わらず強烈な反戦のメッセージの籠もったものでした。
池田理代子さんもこんな漫画描いていたんだなぁ!と驚きましたが、かつては夏になるとたいがいの週刊誌・月刊誌は戦争の漫画の特集で、けっこう名だたる漫画家が描いとったもんだと思いますと、その流れに乗っかったのかもしれません。ごく平凡な少女・真理子が、原爆症で亡くなる同級生や家庭教師との出会いと別れを通じて、反戦サークルに名をつらねていく過程はありがちっちゃありがちでしたがうまかったです。
そして「いなかっぺ大将」や「巨人の星」の川崎のぼるさんもこんな反戦漫画描いていたんですね。内容はもろに「
生ましめんかな」の世界でして、あちらは子どもを生まれさせようとするのに対し、こちらは母を失った赤子に、被曝し、自らの子を失った母親たちがまるで自分の命と引き換えにするかのように乳をやって死んでいくというエピソードが綴られてまして、これが主人公の刑事さんの無骨さと相まっていちばん印象に深かったです。
もうね、タイトルとか見てるから8月9日といったらナガサキだなというのはピンと来るんですよ。でも、そこから引っ張って、どうして父一人娘一人の刑事さんが8月9日に黙祷を捧げることにこだわるのかを「生ましめんかな」的エピソードにつなげた手腕がお見事でした。
で、ここからテーマが沖縄戦に移るわけなんですが、正直、最後の「ワラビムヌガタイ」以外はいまいちでした。水木しげるさんは「劇画ヒトラー」とか戦記漫画描いていたけど、ひめゆり学徒隊を描くにはちょっと資料不足というか下調べ足りないんじゃねぇかなぁと思いました。その前に「
水筒」読んでたからなんですが。あと、この人のタッチだと少女は無理がある…
「ああ沖縄健児隊」も「
沖縄健児隊の最後」読んだ後だと、突っ込みどころが多すぎじゃないかと思っちゃいました。原作者の経歴見たら、戦記物は書いてるようですが、沖縄戦は素人っぽいですね。あと戦記物は兵隊が主役だろうけど、沖縄健児隊は民間人ですからね。ちょっと一緒に並べてほしくないレベル。
「ワラビムヌガタイ〜子どもが語る〜」は著者の名前から察するとおり沖縄の方でして、宮古島に駐留した日本軍と住民との衝突とか葛藤なんかを描いていて、そりゃあ日本軍にだってまともな奴はいただろうけど(部下の罪をかぶってとか)、やっぱりそうじゃない奴の方が多かったろうし、そもそも上層部が屑ばっかりなんだから住民殺しても屁とも思わないよねぇというエピソードを少年の目を通して描いていて、そこが良かったです。
思うに原爆と沖縄戦とでこれだけレベルに差があるのは、著者の力量というより、被害者に徹せられる原爆と、加害者でもあり被害者でもある沖縄戦という違いも大きいのだろうと思います。加害者としての側面をどこまで描くか、その責任をどこまで追及するか、そういうものが見えてこないと薄っぺらな話になってしまうのではないかと思うのです。まぁ、逆に礼賛に走られても困るんだけど…
興味深い題材ではありますが、是非にとお薦めもしません。
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