ほるぷ出版刊。
昨年だったか、栗原貞子さんが亡くなったという記事を読んだ時に、「生ましめんかな」の作者さんだと聞いて、読んでみたいと思っていたんですが、詩集とか全部絶版で手に入らなかったんですよ。
で、ふと図書館で見つけて、これなら入ってるんじゃないか!と思ったら、びんごでした。逆に、峠三吉さんの詩は1つも入ってなかったんで、詩集とかにまとまってない詩、短歌、俳句、川柳をまとめた1冊なのかと思いました。
生ましめんかな
栗原貞子
こわれたビルディングの地下室の夜だった。
原子爆弾の負傷者たちは
ローソク一本ない暗い地下室を
うずめて、いっぱいだった。
生ぐさい血の匂い、死臭。
汗くさい人いきれ、うめきごえ
その中から不思議な声がきこえて来た。
「赤ん坊が生まれる」と言うのだ。
この地獄の底のような地下室で
今、若い女が産気づいているのだ。
マッチ一本ないくらがりで
どうしたらいいのだろう
人々は自分の痛みを忘れて気づかった。
と、「私が産婆です、私が生ませましょう」
と言ったのは
さっきまでうめいていた重傷者だ。
かくてくらがりの地獄の底で
新しい生命は生まれた。
かくてあかつきを待たず産婆は
血まみれのまま死んだ。
生ましめんかな
生ましめんかな
己が命捨つとも以上、116ページより引用。
栗原貞子さんはほかに「ヒロシマというとき」という印象的な詩も掲載されていて、部分的ですが引用させてもらいますと、
〈ヒロシマ〉といえば
〈ああ ヒロシマ〉と
やさしいこたえがかえって来るためには
わたしたちは
わたしたちの汚れた手を
きよめねばならない以上、130ページより引用。
この詩に書かれたことは、今の日本、やはり満たしていないし、むしろ悪化していると思います。恥ずかしいことだと思います。
この2編の詩だけで、満足っちゅうか、腹一杯ちゅうか、読んだ甲斐があったっていうか。13なので、12まであるんだな。読んでみようと思いました。
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