タイトルこそ「鉄人28号」ですが、まだそれは鉄人28号とは呼ばれておらず、もう一人の正太郎という、まことにややこしい呼ばれ方をしてます。当ブログでも、もう一人の正太郎が鉄人28号に変わる過程というのは大事にしたいと思うので、後の鉄人28号と呼ばれる鋼鉄の巨人を「正太郎」と「」付きで呼ぼうと思います。
鈴木弘子さんのクールなナレーションで語られる敗戦後の日本の10年。それは敗戦の傷痕もようやく癒えだした時代、けれども何かの拍子でその傷口が簡単に開いてしまう時代、それでもそうした傷を忘れようとした日本が高度経済成長という多くの犠牲を伴った奇跡的な復興を遂げようとする、その前哨とも言える時代でした。そう、こういう時代にノスタルジーというか、共感というか、理解を示せないお子さんには、このアニメはつまらんのだろうなぁと思います。逆にそういうものがびんびんと響く世代にはたまらんというか、古い忘れてしまったはずの傷口をえぐり出すようなアニメなのかもしれません。
さて、前回は南方で葬られたはずの砲弾から「正太郎」が現れたところまででした。
自分と同じ名前、正太郎にとっては見たこともない父によって、「この世に生まれてきてはならないもの」と断じられた「正太郎」に、正太郎少年は戸惑います。それは今まで知らされなかった父、金田博士の素顔、村雨健次の言う「生きていたら間違いなく戦犯だった」兵器開発者としての父の顔でもあり、素顔であるかもしれないからでしょう。
まぁ、語っちゃう敷島博士自身が金田博士の助手だったんで、「正太郎」への思い入れは相当強いものがあるでしょうから、大ゲサになってしまうのはしょうがないとしても、自分と同じ名前を持つことへのこだわりというか、違和感というか、無視して通れないのは正太郎も同じはずです。
咆哮をあげる「正太郎」。その音は作りかけの東京タワーや、パトカーのガラスさえも粉々にしてしまうほどで、駆けつけた警官たちは逃げ出します。
そして周囲を見回すようなしぐさをしていた「正太郎」は、ようやく辰を放り出して、ある方向に向かって歩き出すのでした。
健次は辰に駆け寄りますが、辰は前回で事切れてしまっています。頭に血が上った健次は、辰の銃で「正太郎」を撃ちますが、オープニングで「だだだーんと弾が飛ぶ ばばばーんと破裂する」と唄われる「正太郎」には効くはずもありません。
健次を止める竜作。
しかし、健次は逆に「辰を新しい家族だと言って可愛がっていたのは兄さんじゃないか」と詰め寄るのです。ここで語られる村雨兄弟と辰のなれそめ、村雨兄弟が前回、盗み出した新型ミサイルの設計図を灰にしてしまうほど兵器を憎んでいる理由などが語られます。
そして彼らは、辰を殺した元凶が「正太郎」と描かれた砲弾から出てきたこと、この場に居合わせた正太郎と敷島博士、大塚署長の繋がりを知っているもので、前回、正太郎に「生きていれば、お前の親父は間違いなく戦犯だった」と言っただけに金田博士のしていたことも知っているらしく、元凶の元凶が正太郎にあると決めつけて、「正太郎」を追うためにやってきたヘリにしがみつきます。
竜作は健次の身を案じますが、まさか、あんな行動に出ようとは…
真っ直ぐに歩いて行く「正太郎」。ですが、18メートルもある鋼鉄の巨人ですから、ただ歩くだけでも大迷惑。道路は陥没し、ビルはぶち壊し、電線に引っかかっては起きた火花で包帯に火がついて火事を起こしと歩く災害です。
ヘリコプターから見下ろす健次は「何てこった」とつぶやき、正太郎は「すごい。まるで戦争の写真みたいだ」とつぶやくあたり、両者の立場の違いが現れていますネ。たぶん、健次は正太郎の言い分を聞いたら、激怒しそうな感じですが。
そんな正太郎に「正太郎」は兵器として作られたと語る敷島博士。でもと、言葉を濁してしまう博士に正太郎は説明するよう詰め寄りますが、大塚署長に「今はそんなことをしている場合じゃない」と止められてしまいます。「ジャイアントロボ 地球の燃え尽きる日」でもそうでしたが、わりと常識人というか、良心が感じられるのが大塚署長の良いところ。金田博士を尊敬するあまり、鉄人のことになるととかく暴走しがちな敷島博士とはいいブレーキ役になってそうな感じですネ。
しかし、さすがに少年探偵、正太郎もぼんやりと「正太郎」を眺めていたわけではありません。
国会議事堂もぶち壊して突き進む「正太郎」が、ひたすら真っ直ぐに進んでいることを指摘し、その先にあるのはお約束、敷島重工でありました。
すると敷島博士が「正太郎」が動き出した理由、「正太郎」が目指すものに思い当たり、ヘリは一路、敷島重工へ急ぐのでした。
その頃、健次の身を案じる竜作は、三輪車に乗って、辰の遺体を助手席に乗せて発車したところでした。
村雨竜作については「鉄人28号 白昼の残月」にも登場してましたが、キャラが微妙に異なるように思います。どちらも同じ特攻崩れであることに違いはないのですが、敗残兵としてアメリカに拾われ、「今の日本が嫌いだ」と言ったショウタロウに対し、どこか冷めた目で見ていたような、その気持ちもわかる、だが、せっかく生き延びたんだ、俺はもうちょっと大事に自分の命を使わせてもらうことにするぜとでも言ってそうな映画版の竜作には、生を諦めていない、そんな人間だけが持つ明るさというかタフさがあったように思うのです。
対して、こちらの竜作にはナレーションで「時代の流れから取り残された」がちょうどはまってしまうように、どこか自分の命を大事にしていないような、まぁ、実際に特攻したシーンなんかを見ているから、そう感じてしまうだけかもしれませんが、自分の命に対して投げやりな感じがしなくもないのでした。
どっちも若本規夫さんの声がはまりすぎるくらいにはまってるんですがネ!
そう言っているうちにヘリは敷島重工に到着、走っていく正太郎たちを見て、健次は憎々しげに「やっぱり、あいつらがからんでやがる」と呟きます。
工場の中を走っていく正太郎は初めて27号を目にします。「これが自分の限界だ」と呟く敷島博士。たぶん、「正太郎」と同じように町中を歩かせると、あちこちにぶつかった時に壊れちゃうんでしょうかな?
いちばん奥にあったのは、敷島博士が復員した時にクレーン車まで動員させて持ち帰った巨大な腕。しかも、その中に隠されていたのは起動中のリモコンだったのです。
ここで大塚署長も「正太郎」が敷島重工を目指しているわけに納得。
さらに敷島博士が続けて言うには、27号の起動実験中に、リモート回路を28号に変更したことで、その電波が南方の孤島にも届き、例の砲弾を発射させたのではないかと。狭い帯域だな、おい!
それで「正太郎」を止めようとリモコンを取り出そうとする大塚署長ですが、ちょっと太っちょなもんで狭くて入りきりません。
敷島博士は正太郎に助けを求めますが、さすがの少年探偵にも事情がわけわけめで、説明を求めますと、敷島博士、例によって口ごもっちゃって、「君は知らない方が」とか言い出すもので、正太郎、すかさず「正太郎の名を冠しているのなら知る権利がある、いや、知らなければならないと思います!」と断言したもので、敷島博士も「全てを話そう」とか言ってますが、この人、隠し事が多すぎるんで、首根っこをとっつかまえて、洗いざらい白状させたい気分です、わしとしては。
ここまでで半分とか相変わらず密度が濃いぜ、今川監督…
敷島博士によって語られる金田博士。
正太郎が初めて知らされる父の姿。それは確かに村雨健次の言ったように「生きていれば戦犯間違いなし」の兵器開発者だったのですが、同時に金田博士という人物は、戦争で人が死ぬことを嫌ってもいたのです。しかもそんな時に知らされた妻の妊娠の報に、博士は希望なき時代の希望を見出しさえしますが、出産の前に金田博士と敷島博士は南方の秘密の研究所への出向を命じられ、新たな兵器、鉄人の開発に従事させられることになってしまいます。その当時の日本は敗色が濃厚で、決定的な兵力不足から、兵士に代わる鋼鉄の兵士=鉄人が求められていたのです。しかし、その計画は難航し、失敗に次ぐ失敗、兵器としての実用化さえ危うい状態でした。ところが、そこに届く東京大空襲の報せ。金田博士は妻子の無事を願いますが、飛んで帰るわけにもいかず、連絡も満足に取れないまま、妻子が死んだものと思うのです。そして、何かに取り憑かれたかのように鉄人計画に邁進する金田博士は、28番目のロボットに「正太郎」と名づけ、失った我が子の代わりに大切に作り上げたのでした。その名前は生まれてくる子が男の子だったらつけたいと思っていた名前だったのです。ところが「正太郎」に出撃命令が下されます。ここで、話がようやく第1話の過去につながりまして、敷島博士(当時も博士だったのか怪しいところですが… あと、この人の立場を考えると戦犯として裁かれてもおかしくないと思うんですが、そこはわりと万能な科学者なんで、免除されたと考えたらいいのでしょう…)の「どうして、そんなこと」が、出撃命令を持ってきた将校を金田博士が撃ち殺したことを指しているとわかります。そして金田博士は「これ以上、私には我慢できんのだ。そして私は知ってしまった。この世には生まれてきてはいかんものがあることを」と独白。「正太郎」が出撃させられるのが「我慢できない」? でもそれは最初から兵器として作っているのだから当然のことでは? それとも別のことが? 謎をはらんだまま、起き上がる「正太郎」。研究所の上に降ってくる無数の爆弾。金田博士の死とともに、鉄人計画もまた葬り去られ、残ったのは復員した敷島博士が持ち帰った巨大な腕のみのはずでしたが、砲弾が飛来し、「正太郎」が動き出したということは、金田博士の心の中に、やっぱり「正太郎」を葬りきれない気持ちが残っていたのです。その存在がどれほど悪いものであれ、自分のドラゴンを葬ることのできなかった「サンサーラ・ナーガ2」のアムリタのように…
ですが、実際には金田博士が失ったと思っていた正太郎は空襲を無事に生き延びて、大塚署長に引き取られていました。敷島博士は正太郎を「正太郎」の生まれ変わりだと言いますが、正太郎にしてみれば複雑な気持ちでしょう。ゆえに初期の対立というか、ロボと大作みたいな信頼関係がなかなか構築されていかないのがもじゃもじゃするのでした。正太郎のせいだけじゃないんだけどね。
そこに工場の屋根をぶち破って「正太郎」登場、まだ操縦機を取り出せない大塚署長ごと腕を持ち上げてしまいます。大塚署長もいい人なんですが、自分が入れないなら物差しとか、警官なんだから警棒ぐらい持ってそうなもんですが…
腕、というか操縦機を奪って悠々と立ち去ろうとする「正太郎」を止めるべく、敷島博士は起動実験に成功したばかりの27号を出撃させます。
そして始まるロボット大戦。パワーでは27号を圧倒する「正太郎」ですが、27号には敷島博士という操縦者がついています。腕で絡めて押しつぶされそうになれば離れ、鉄骨を武器に「正太郎」に殴りかかるという知恵もあります。
大塚署長が驚いたように「あんた、本気で…」と言ってますが、金田博士の遺言、「もしも復活するようなことがあれば、その時は葬ってくれ」を聞いているはず、もちろん敷島博士も本気のはずなんですが…
そして、この隙に操縦機を取り返すべく、「正太郎」の落とした腕に駆け寄る正太郎。大塚署長は止めようとしますが、さっき落下した時のダメージは思ったより大きかったらしく、できません。
しかし、操縦機を見つけた正太郎が見たものは、27号の攻撃にびくともしない「正太郎」の強さでした。「凄い」とつぶやいた正太郎に、敷島博士が「そう」と受ける今川節v 「どんな攻撃にも耐えうる鉄の鎧に身を固め、計り知れぬ力で居並ぶ敵をたたいて、砕く! 決して倒れることもなく、死ぬこともなく、ただひたすら操縦者の意のままに戦い続ける不死身の兵士! 海であろうが、空であろうが、戦う場所を選ばない! それが、それが、勝利することのみを目的とした完全なる兵器、鉄人!」と恍惚として語っちゃってますが、精魂傾けたはずの27号が目の前で「正太郎」に粉砕されてるんですよ。でも、敷島博士は完全に「正太郎」の方に思いが行っちゃってて、もう誰の話も聞こえないっていうか… あの〜 博士、博士? 「鉄人28号!」 さらに正太郎まで「そして、同じ父さんを持つ、もう一人の…」と入りかけたところで村雨健次が割って入ります。おお、いいタイミング。
「不死身の兵士が何だって言うんだ、そんなものが何になるんだ、戦争で死んでいった俺の家族は、俺の仲間は、何だったんだ!」とことさらに武器を憎む健次に正太郎も我に返った感じです。まぁ、確かに、こんなものが復活しなければ辰は殺されないで済んだんですもんね。それに空襲で家族を失った村雨兄弟が辛酸をなめさせられたのも想像にかたくないところです。そう考えますと、正太郎は境遇こそ天涯孤独の身ですが、保護者である大塚署長や敷島博士の持つ権力のためにそうとう恵まれていると言えます。そう、ぶっちゃけ、彼はエリートなんです。だから邸宅も持ってるし(一人暮らし!)車も運転するし、学校にも通わないで少年探偵をやっているという、エリート中のエリートなわけなんですよ。そういう正太郎に健次が反発するのもある意味自然… 健次は、そのまま持っていたダイナマイトを「正太郎」改め鉄人28号に投げつけますが、27号の攻撃も軽くいなしたのですから効きません。「答えてみろ! 答えてみろよ!」と言った健次に鉄人は足を振り上げます。ダイナマイト程度でも敵と認識されちゃった?
そこに竜作の運転する三輪車が突っ込んできて、鉄人の足に体当たり、よほどスピードを出していたらしく、さしもの鉄人も倒されてしまうほどでした。しかし、このために三輪車は大破、竜作も帰らぬ人となってしまいます。そのいまわの際の台詞が「特攻崩れの汚名を返上 今日は俺の終戦日」なんで、よほど竜作にとって生き残ったことは辛かったのだろうかと思うのですが、空襲で家族を失い、「正太郎」改め鉄人28号に辰を殺された健次にとって、竜作を失うことがどれほど辛いのか、そのことにも思いを馳せてくれれば良かったのになぁと思わなくもありません。ていうかさ、生きててほしかったよ、兄さん! それもあって、「白昼の残月」では竜作を生き残らせたのかなぁ、なんて思わなくもないわけですが… あっちでは今作の竜作ポジションにショウタロウが該当すると思われますし。
竜作は健次に「戦争なんか忘れちまいな」と言って事切れますが、たった一人の肉親がこんな死に方をしてしまったら、逆にこだわっちゃうんじゃないだろうかと思うのは、わしだけではありますまい…
正太郎はなぜ、今になってこんな戦争の遺物が出てきたのか、わからないと呟きます。敷島博士にとっては垂涎の的も、金田博士にとっては愛する息子も、戦争という時代を直接知らない正太郎には、そんな風にしか見えないのでしょう。
なおも操縦機を取り返そうとする鉄人28号に、正太郎は叫びます。もう戦争は終わった、お前の戦う相手はいないんだと。おまえの役目は終わっている、おまえが必要とされた時代は終わっているのだとも。さらに言うことには、おまえはまだ生まれたばかりで何もわからない。だから僕がおまえを止めてやると、ようやく操縦機に手が届き、正太郎はスイッチを切るのでした。
そして朝が来て、健次は逮捕されます(罪は?)。鉄人の操縦機を手にした正太郎は、この後、嫌でも鉄人という時代の遺物を巡る戦いと陰謀に巻き込まれていくのでした。まるで高度経済成長に向かう時代の波に抗うかのように。
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