山本おさむ著。秋田書店刊。全3巻。
号泣必須の第2巻です。
2年生になった一作と、その担任になった高橋先生。
しかし時代はシベリア出兵、米騒動ときな臭い方向へ進んでいきます。
一作が仲良くなった松江(後の嫁)は両親ともに聾唖で、姉だけが健常者で工場勤務ですが、生活は困窮しており、一作からお昼ご飯のふかし芋をもらって食べてます。一作は母が実家を出、学校で働けることになったので(前巻で)、ともに寮暮らしです。
世界が広がっていく一作は、ふとしたことから富農の息子、山田くんから米を強奪する高等科の川田くんと知り合います。川田くんの仲介でやはり高等科の清水千代ちゃんを知る一作ですが、両親がともに聾唖の千代ちゃんは、馬小屋の2階で暮らしていました。
わしがやられたのは、この千代ちゃんと、手話を知らず、子どもの頃から家族に馬車馬同然に働かされてきたお父さんとのエピソードです。
米騒動で困窮する千代ちゃん一家。しかも母親が妊娠中のため、口減らしと金を稼ぐために学校を辞めなければならなくなってしまう千代ちゃん。そして苦しいなか、母親は出産しますが、出稼ぎに行かされる千代の身を案じて、高橋先生に訴えます。ここらへんから山本おさむ節の真骨頂でじわじわと泣かされるのですが、千代ちゃんが学校を退校になり、父親と挨拶に来まして、担任だった平塚先生が千代ちゃんについて語るわけですよ。もう、ここらへんから涙で読めない展開。
千代ちゃんは7時頃に登校してきた平塚先生より早く学校に来てました。どんなに早く来ても千代ちゃんのが早いのです。とうとう暗いうちに起き出した先生、その日は朝から雨でした。そこに現れる千代ちゃんと父親。幼い千代ちゃんを天秤に乗せてきた父親は、それまでは苦悩の表情しか見せていませんでしたが、千代ちゃんに微笑みかけてました。千代ちゃんちを訪ねた平塚先生はその事情を知ります。
千代ちゃんの両親は千代ちゃん(おそらく長女。下に弟妹が3人ほど)をなんとしても学校にやりたかった。兄夫婦に頼んで学費を出してもらいましたが、その代わり、父親の仕事は倍に増えました。父親は、暗いうちから起き出して、千代ちゃんを学校に送り届け、日の出とともに働きに出なければならなかったのです。千代ちゃんが自力で通えるようになるまで3年、父親は雨の日も晴れの日も千代ちゃんを学校に送り届けました。
だから平塚先生は言うのです。
「どんなに無念だったでしょう…
そうやって通った学校を辞めなければならない あの2人は…
あの2人の胸には…
どんな言葉が…」
だから千代ちゃんが学校を辞める時に「辞めたくない」と言って柱にしがみついたのです。その千代ちゃんを泣きながらたたいた父親。手話もできず、簡単な、野良作業で使われる言葉しか知らないという父親の無念さ。その、言葉にできない思いに、ただただ涙があふれてしまうのでした。
その千代ちゃんを駅まで見送りに行った平塚先生は櫛を渡しました。それは、先生と千代ちゃんを結ぶ思い出の品でもあったのです。
そして、千代ちゃんを見送る川田くん。2人と一緒に涙涙です。
この後、展開が急に速まって、口話法の西川親子の話とか入りますが、一作は高橋先生から教師を打診され、東京の師範学校に行くことになります。
また、一作と松江がいいムードになってますが、結婚は次巻までお預けです。川田くんと千代ちゃんは一作から結婚したことが知らされます。
さらに関東大震災で大杉栄夫妻や、朝鮮人が大勢殺されたことは有名ですが、聾唖者も殺されたという話が避難してきた一作の体験として語られます。
その一方で西川親子のエピソードも大きく割かれ、高橋先生は口話法の流れに抗うことになります。
口話法に翻弄される子どもたちのエピソードで次巻へ続きます。
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