山本周五郎著。新潮文庫刊。
表題作のほか、「花筵」「ちくしょう谷」「へちまの木」を収録した中編集です。
「ちいさこべ」は火事で全てを失った大工の若棟梁が奮闘するさまを描いた人情物。
「花筵」は女性物。
「ちくしょう谷」は、タイトルのように呼ばれる流人谷を立て直そうとする若侍が兄の仇を許そうとする話。
「へちまの木」は、1200石の旗本の三男坊が町人として生きようとして挫折しちゃう話、でした。
表題作の「ちいさこべ」がやはり良かったのですが、親を失った孤児たちを引き取って、やっぱり親を火事で失った女の子とくっつきそうなラストよりも、女の子(と言っても16、7歳くらい)が孤児のなかでも大きな男の子にしょっちゅう見られていて、棟梁が「男の子はそんなものだ」と性的な衝動を話しても、「いやらしい」と拒絶する気持ちがあったのに、子どもの方は実は彼女を「おっかさん」と慕っていたというラストが良かったですな。じんとした。こういうエピソードが周五郎さんは巧いです。
「ちくしょう谷」は、わしも興味のあるテーマなんですが、作者の言う
「人間が一歩でも人間を宥したとすれば、それはもう際限なく宥したということではないかね。ここまででストップなんてのは宥したうちにははいらないのじゃないかね」
が大事ですが、話としてはいまいちだったかも。
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