麗水山著。川村湊監訳。安岡明子・川村亜子共訳。作品社刊。全2巻。
地獄島を脱出しても厳しい境遇の続く完結巻です。
伊知相(ユン=チサン)は崔又碩(チェ=ウソク)、成必洙(ソン=ビルス)と脱走を図りますが、脱走の際に崔又碩は足を負傷してしまい、島に残ります。伊知相と成必洙は中之島でイカダを作って長崎に逃げますが途中で離ればなれになってしまい、成必洙の行く末は不明のままです。伊知相は親切な日本人・江上夫婦に助けられますが祖国に戻るのも容易ではない敗戦の色も濃い末期の日本、やむなく江上夫婦の娘婿・中田を頼って三菱の造船所で働くことになります。
崔又碩は錦禾(クムファ)を失ってしまい、徴用工の仲間と蜂起を計画、その隙に仲間を逃がしますが鎮圧されるどさくさに紛れて朴一柱(パク=イルジュ)と長崎に逃げます。あちこちを放浪しますが親戚の六本指を頼って長崎のトンネル工事に従事することになります。
張吉男(チャン=キルナム)はすっかりすれており、同じ朝鮮人を顎でこき使うような性格になっていますが、長崎刑務所に収監された父とようやく再会を果たします。また崔又碩に目をかけますが、これはあんまりうまくいっていません。
錦禾は崔又碩たちの脱走を助けたことで拷問にさらされますが、常々、徴用工たちに同情的な鈴木という労務係に助けられ、一命をとりとめます。しかし、崔又碩が軍艦島に戻っていることを知らぬまま、彼の行く先を邪魔してはいけないという思いで自殺してしまいます。崔又碩は李明国(イ=ミョンゴク)から錦禾が拷問されていることを知らされ、ぶん殴られたのですが、釈放されてからも会いに行くことなく、結局、錦禾は死んでしまうのです。彼女の遺骨は李明国に引き取られますが、崔又碩に渡され、彼女の遺言どおり、大半は海にまかれ、一部は崔又碩が最後まで持ち歩くことになります。崔又碩は足を怪我してしまったので移動もままならず、錦禾に会いに行くこともできなかったのですが、どうして顔を見せてやるくらいできなかったのかと思いました。せめて会いに行けば、彼女の死もなかったのかもしれないと思うと…。しかし、その場合、錦禾は再度、崔又碩の脱走を見送らなければならなくなるので、どちらにしても死を選んだかもしれず、やるせなさが残りました。
李明国は片足を失ったために軍艦島で療養し、朝鮮に戻ることになります。その前に長崎刑務所で張吉男の父・張泰福(チャン=テボク)に面会していますが、その後の消息は不明です。けっこう知的な人物かと思っていたら、途中でわりと親切なんだけど、「どうして朝鮮人は」と文句を言った看護婦の石田に悪態をついて暴れたシーンがありまして、たまりに溜まっていたものを吹きだしたのか、実はもともと荒っぽい人物なのか、わかりませんでした。
多くの人物が軍艦島から脱走し、朝鮮に戻ることができぬまま、8月9日を迎えてしまいます。しかし、同じ被爆者でありながら、朝鮮人というだけで差別を受け、ほとんどの者が亡くなってしまいます。親切な日本人も描かれる一方で、これでもかと綴られる極限状態での差別はページを繰る手を止めさせませんでした。
最後、比較的軽傷で生き残った伊知相は、世話になった江上老人の娘・明子を助けて長崎の町を放浪し、彼女を病院に預けて別れます。もはや誰の目にも明らかになった日本の敗戦を受けて、伊知相は朝鮮に帰り、子どもたちの教育に力を入れたいと願うところで幕です。
「
火山島」とはまた違った重さを持った話でした。ただ、どちらを読んでも思うのは、朝鮮という国を歪めてしまった日本の罪深さです。その罪を忘れ去って、なおも差別し、貶めている今の日本の罪の重さです。
いつか軍艦島に行くことがあるとしても、それはそこで殺された大勢の人を弔う目的であるべきだと思いました。
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