船戸与一著。新潮社刊。
いよいよ最終刊です。この本が発行されてから2ヶ月ほどで船戸さんも逝ってしまいました。完結するまではという思いと、完結してほっとしたのかなぁなんて思いました ( ´Д⊂ヽ
この巻では1944年〜1946年が語られます。そういう点では1巻で1年という今までのパターンから外れているのですが、ボリューム的に特に不足という感じはせず、最後まで書き切った感じです。
次郎は前巻のラストで生きながら蛆虫に食われるという悲惨なことになっていましたが、あのまま意識を失い、部下にとどめを刺され、遺髪を満洲まで持ってきてもらいました。
お兄ちゃ〜〜〜ん 。・゚・(ノД`)・゚・。そして、初めて揃った3人兄弟+αで、通化に石碑を作り、そこに遺髪を埋めることになりました。部下の人もインパール作戦で死にかかっていたので、とても次郎の遺骨というわけにはいかず、やむなく髪を切ってきたそうです ( ´Д⊂ヽ
こうして、1巻から欠かさず登場してきた敷島兄弟に、ついに欠員が出てしまいました。次郎の死は予想どおりなんですが、いちばん好きなキャラだったんで残念です。
硫黄島、東京大空襲、沖縄戦、2発の原爆、ソ連軍の参戦を経て、ようやく降伏する日本。ここら辺はソ連軍以外は登場人物が特に絡んでいないのでさらっと事実が語られます。
太郎は最後まで満洲国の官吏でしたが、その責任を問われてソ連軍に連行され、シベリアに送られてしまいます。意外な展開です。太郎は生き延びると思っていたのですが…。さらに1巻から欠かさず登場した間垣徳蔵が、実は敷島兄弟と従兄の関係にあることが判明、ついでに太郎の年齢が1945年の時点で47歳とわかりました。
ううむ、間垣徳蔵が従兄とは…。敷島兄弟は長州の出身ですが、その祖父が会津城の攻防に参戦、現地で陵辱した会津の女性が間垣徳蔵の祖母に当たるそうです。あらまぁ。さらに、4巻だったかで四郎に殺された特高の刑事も親戚筋と判明、意外と世界は狭いものですが、間垣徳蔵が敷島兄弟にしつこく絡んできたのもわかるような感じです。
ただ、シベリアに送られた太郎は、ここで間垣徳蔵と再会しますが、だんだん誇りを失っていってしまい、とうとうおやつほしさに同じ収容者を売ってしまいます。その罪を負った間垣徳蔵は殺され、太郎も自死するのでした。奥さんの生死も不明のままで、娘だけは三郎の嫁の実家で育てられているので、そのまま養女にされそうですが、太郎の死も日本には伝わらないのでしょう。最後の最後に誇りを取り戻したというか、自分が他の兄弟に比べて何の苦労もしていないという自省のもとで自殺を選んだ太郎は、船戸作品には珍しいタイプかと思いました。
三郎は満洲国の滅亡後も関東軍のままでいますが、部下とともに流れ流れて、最後に関東軍の司令部が置かれようとしていた通化に行き、そこで八路軍と国民党軍の対立を知り、蜂起する日本人に加勢して、戦死します。その前に三郎が助けた開拓民の少年が四郎に託されることになりますが、四郎はこれにて兄の死を知り、三郎の遺骨は次郎の石碑の隣りに埋められるそうです。
順風満帆な三郎でしたが、最後まで軍人を貫きました。ただ、妻子のことはちっとも描写がなくて、満洲の滅亡によって自分の立つ瀬も失ってしまったのか、日本に帰る気はさらさらなかったようなのが気になります。まぁ、兄弟の誰よりも真っ直ぐに軍人一筋に生きた人なんで、それ以外の生き方はたとえ妻子と一緒でも考えられなかったのかもしれません。
四郎は予想どおり生き延びました。しかも三郎から頼まれた、開拓民の少年を広島の祖父のもとまで連れていくという仕事まで果たしました。途中でソ連軍の女性に逆レイプされたり、かつて開拓民だった時に一晩だけ関係のあった女性と再会したりしてますが、最後まで変わらなかった感じです。まぁ、あんまりいい意味ではありませんが、三郎とは別の意味でぶれない人生だったのかなと。
ただ、日本に帰るには帰りましたが、その後のことはまったく思いつかないようで、そんな四郎で物語も終わっています。
1冊ずつ読んできたんで、「
火山島」のように大作を読んだ〜という感じはちょっと薄いように思います。ただ、1930年代から1945年までの満洲を舞台に描ききったこの物語は、やはり大作の名にふさわしく、あの時代の日本の一面を切り取って見せているのは間違いありません。そういう意味でも、この物語は最後の船戸与一さんの小説であり、間違いなく代表作に数えていいのだと思いました。
「
山猫の夏」のような胸のすく小説ではありませんが、満州というでたらめの国を語る時、欠かせない小説になってもらいたいと思います。
改めて船戸さんのご冥福をお祈りします。素晴らしい小説の数々をありがとうございました!
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