李炳注(イ=ビョンジュ)著。松田暢裕訳。東方出版刊。全2巻。
「
太白山脈(たまには6巻)」に先取って書かれた朝鮮戦争前後の、主に左翼に加担した若者たちを描いた大作。
1930年代から始まって朝鮮戦争終結までの若者たちの希望と挫折、それぞれの戦いを描く。
粗筋をざっくり書くとこんな感じです。全2巻ですが、上下合わせて1600ページ超の長編で、韓国では全7巻です。あと「太白山脈」よりも前で、韓国では古典として親しまれているとか。そういう古典への親しみって日本じゃ聞かないよね。平安〜江戸の古典はともかく。
「太白山脈」がわりと南朝鮮労働党に同情的に書かれていたのに対し、こちらではかなり批判的。あと南朝鮮労働党をずっと共産党と言っているのだが… 朝鮮共産党が南朝鮮労働党に変わったわけですか…
さらに「太白山脈」だと実名の人物はほんとに名前ぐらいしか出てこず、批判もされなかったと思ったんですが、こちらでは共産党の朴憲永(パク=ホニョン)からしてこきおろされまくりで、1970年代に出版された時代を考えると無理もないのか…
登場人物のうち、李圭(イ=キュ)と朴泰英(パク=テヨン)2人が主役らしく、交互に書かれるところは「
火山島(適当に4巻)」と似ていなくもありません。
と思っていたら、下巻では李圭は日本、次いでフランスに留学しちゃったんで最初と最後しか出てきませんでした。ほとんど朴泰英のパートでした。
あと、「太白山脈」もそうだったんですが、下巻も中盤くらいからパルチザンの描写一色になりました。まぁ、朴泰英がパルチザンになっちゃったからしょうがないんですが、とことんパルチザンに否定的なのに「自分を罰する意味」でパルチザンを抜けない朴泰英というのは、あんまり共感できないキャラクターでした。
作者としては朴泰英や河俊圭(ハ=ヂュンギュ)にはモデルがおり、彼らの死、共産党に加担したための死に対する怒りが執筆への原動力となっていると後書きに書いてあったので、朴泰英は死を選ぶしかないんでしょうが、いろいろと複雑…
また南労党に批判的なせいか、済州島四・三事件についての記述がまったくなく、いきなりな感じで麗水の反乱事件に飛んだのですが、まだ語れない時代だったのかもしれません。
個人的には2人のとっての恩人で東京外国語大学まで卒業した知識人でありながら、持病のためにデカダンな生活を送る河永根(ハ=ヨングン)の友人で、虚無主義者の権昌赫(クォン=チャンヒョク)の透徹した眼差しが好きだったりしましたが、この2人も朴泰英がパルチザンになるとまったく出てこなくなっちゃうので、そこはちょっと寂しかったです。
ただ、日本敗戦からのあの時代、そこまで半島の行く先を見通していた人がいたのか、もしもいたとしたら、今の分断や朝鮮戦争などは起きていなかったのか、それでも起きるべくして起きたのが朝鮮戦争だったのかとか、いろいろと思うところは尽きません。
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