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されど平穏な日々

日々のつぶやきと読んだ本と見た映像について気まぐれに語るブログ。Web拍手のメッセージへのレスもここ。「Gガンダム」と「ジャイアントロボ」への熱い語りはオタク度Maxにつき、取り扱い注意! 諸事情により、コメントは管理人が操作しないと反映されません。時々、サイトの更新情報など。

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山猫の夏

船戸与一著。講談社文庫刊。全2巻。

最後の船戸小説です。レビューの順番はばらばらですが。

たきがは的にはいちばん好きな船戸小説で、主人公・山猫はいちばん格好いい船戸キャラです。異論は認めません。私的には40代ぐらいの原田芳雄さんに是非演じていただきたかったのです。そういう風貌で読んでます。白黒まだら髭の身長180cm以上、引き締まった肉体としわがれた声の持ち主、山猫こと弓削一徳(ゆげいっとく)はそんなキャラです。

いちばん好きな部分は山猫のキャラに負うところが大きく、これだけ壮絶に人が死ぬ小説(船戸小説の中でも最多ではなかろうかと)でありながら、読後の爽快さもひとえに山猫ゆえです。

ブラジル東北部ペルナンブコ州のエクルウという町まで流れたおれは31歳の日本人。亡き叔父の妻マーイ・マリアを頼って、その経営する「蜘蛛の巣」という食堂兼酒房に居座り、マーイの姪ソフィアといい仲になりながら、なんという目的もない生活を送っていた。そんな暮らしは、ある日、山猫と名乗る日本人、弓削一徳の登場で一変する。山猫はエクルウの町を支配するビーステルフェルト家の長女カロリーナが、ビーステルフェルト家の宿敵アンドラーデ家の長男フェルナンと駆け落ちしてしまったので、カロリーナを取り戻す捜索隊のリーダーとなる。おれは強引に山猫の助手とされ、前払い金50万クルゼイロをマーイが勝手に使ってしまったためもあって、渋々、山猫に従う。厳しい東北部の気候下、山猫はカロリーナとフェルナンに追いつくが、すでにフェルナンは山賊たちに殺されており、アンドラーデ家の仕立てた捜索隊と戦闘になるが、無事、カロリーナを連れてエクルウに戻ってくる。だが、ビーステルフェルト家の経営する農園を40億匹ともされる大量に発生したバッタが襲い、ビーステルフェルトは支払いを渋る。しかも、山猫の目的はビーステルフェルトの支払う捜索費ではなく、ビーステルフェルト・アンドラーデ両家の資産の半分だと言うのだ。やがて、フェルナンの死を山猫に知らされたアンドラーデ家が戦いを仕掛け、元々両家について真っ二つに割れていたエクルウの町も、その名のとおり、住人同士が争うことになっていくのだった。

ちと長く書きましたが、「ロミオとジュリエット」ばりの対立する両家の好き合う同士の追跡劇は、この物語の半分以上を占めていますけど、主題ではありません。山猫の目的は最初からビーステルフェルト・アンドラーデ両家の資産の半分、23億クルゼイロを手に入れることだったのです。まぁ、その目的は後半にならないと明らかにされない上、ラストまで、山猫がそれだけの金を何に使おうとしていたのかもわかりません。

この話、とかく人が死にます。山猫が殺した連中も多数いますが、ニュースの中でもやれ調査隊や観光船が行方不明になったと流れ、そのたびに山猫が高笑いします。登場人物の一覧が冒頭にありますが、このうちの2/3は物語の最後には生きていません。それ以外にも粗筋で書いているように、町の住人が殺し合います。まぁ、何とも壮絶な話です。
それらの死をお膳立てしたのは、ニュース以外はほとんど山猫です。では山猫は救いようのない極悪人でしょうか?

しかし、エクルウの町は、もともとビーステルフェルト家とアンドラーデ家の抗争が何十年も前から続いており、「ロミオとジュリエット」のように最後、和解するという甘い展開にはなりません。もっとも駆け落ちしたカロリーナとフェルナンのカップルはそれを期待しているわけですが、両家の当主によって即座に否定されます。不倶戴天の敵同士です。
そして、エクルウの町も、両家に沿って、真っ二つに分かれています。一方はビーステルフェルト家しか相手にせず、一方はアンドラーデ家しか相手にしません。小さな町ですが、それで成り立っています。同じ店が2軒ずつある、おかしな町です。
でも、町に1つしかない店もあります。それが語り手のおれが働く食堂兼酒場、蜘蛛の巣と、娼館・赤の館です。それに、教会、警察、軍も1ヶ所しかありません。1ヶ所しかないということは、これらの5種については、まぁ、警察と軍は公共機関なわけですが、両方の住民から利益をあげられ、一方的に儲けているという図式です。
実際、エクルウでビーステルフェルト家とアンドラーデ家が何十年も小競り合いをやっていられるのは、たとえ殺人が起きても警察が介入しないからであり、軍が見逃すからでもあるのです。

山猫は、この両家の一見、不倶戴天の敵同士のようでいて、実はどっちもどっちかが倒れるまでやらない、本格的な戦いになることがない関係に亀裂を入れます。町もそうです。何でも2軒ずつ店があるおかしな町の住人たちも、せいぜいいがみあう、互いの商店で買わない、物を売らない程度の対立を殺し合いにまで進めます。エクルウという町の名のとおりに。

エクルウというのは、かつて、ブラジルに連れてこられた黒人奴隷たちの言葉で「憎悪」という意味です。そういう意味深な町は、当然、現実にある町ではありませんが、同じ部族の言葉で憎悪を意味する「エシュウ」という町は実在しています(ただし、2005年現在、現地を旅した人の日記によると、血なまぐさい抗争は起きてないそうです、表面上は)。

長年、ビーステルフェルトかアンドラーデについて、互いにいがみ合ってきたエクルウの人々の歪んだ憎悪に、山猫は火をつけました。両家の資産の半分、23億クルゼイロをかっぱらうために。

その理由とか、語り手おれの成長とか、とにかく格好いい小説です。

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