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されど平穏な日々

日々のつぶやきと読んだ本と見た映像について気まぐれに語るブログ。Web拍手のメッセージへのレスもここ。「Gガンダム」と「ジャイアントロボ」への熱い語りはオタク度Maxにつき、取り扱い注意! 諸事情により、コメントは管理人が操作しないと反映されません。時々、サイトの更新情報など。

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休暇

原作:吉村昭
監督:門井肇
出演:平井透(小林薫)、金田真一(西島秀俊)、三島主任(大杉漣)、美香(大塚寧々)、池内部長(利重剛)
見たところ:シネプレックス平塚

光州5・18」を見に行った時に予告編でかかっておりました。それがおもしろそうだな〜と思ったのがきっかけ。
さらに、たきがはの好きな小林薫さん、大杉漣さんが出演してはる。こりゃ、ええわ、と思い。
さらにさらに、原作が吉村昭さんと来ている。「破獄」と「戦艦武蔵」しか読んだことないんですが、徹底した取材とインタビューで確としたノンフィクションを書かれる作家さんだ。しかも「破獄」は1回手放してまた買ったという曰く付きの作だ(しかもまた手放した)。
さらにさらにさらに、ネタがとある死刑囚の執行に立ち会った刑務官が1週間の休暇をもらって、という話だという。

ここまで条件揃ってるって滅多にないよ? こりゃ行くしかないっすよ?

ちゅうわけで、れでーすでーを狙って行きました。

刑務官・平井は真面目が取り柄だが、つい婚期を逃し、姉の仲立ちで6歳の男の子を連れた美香と見合いをし、結婚することになる。だが、新婚旅行に行くには有給休暇は0、ささやかな披露宴を設けようと話しているところで、平井も知る死刑囚・金田の刑が、結婚式の前日に行われることになる。さらに支え役を務めた者は1週間の休暇をもらえるという。当初、執行への立ち会いを外されていた平井だったが、自ら支え役として志願する。人の命を奪うことへの引き換えにもらう休暇、平井は美香とその息子との新婚旅行に当てようと考えていたのだった。

淡々と描かれる新婚旅行と、刑務官としての日常。つまり、新婚旅行の平井はすでに金田の死刑を支え役として勤めてしまっているわけで、妻となる美香にも言えない死刑執行に、何を考えているのか、何を言えばいいのか、不器用に、実直にだけ生きてきた男の、初めての華やかな人生の一こま、ところがその披露宴に集う同僚たちもまた、死刑執行に立ち会った者ばかりだったりする。で、せっかく平井と美香が「1つ上のグレードで」と頼んだ料理も食べられなかったりする。悲哀というか、因果な職業というか。なんでこんな職業選んぢゃったんだろう、とつぶやきが聞こえてきそうな。しかし死刑という制度がある限り、誰かがその犠牲にならなければならないわけで。それは単にはんこ押してるだけの法務大臣なんかには理解できんわけで。

かつて、死刑執行という役は嫌われるものだった。そりゃそうだ。仕事とはいえ死刑を執行する人間を、誰が好くだろう。そんな仕事を選んだ者を誰が好くだろう。だから、中世のヨーロッパとか、死刑執行人は世襲制だったし、江戸時代の日本では穢多非人がやらされるものだった。法治国家になった今の日本では、世襲制ではなく、公務員であるわけだが、上の命令でやらされる死刑の立ち会いなんか、本当ならば頼まれたってやりたくないのが本音じゃあるまいか。
そう、たきがはが現在の死刑という制度に懐疑的なのは、1つはこの点がある。自分は手を汚さない連中が「殺せ」「吊せ」と合唱する、今時の死刑制度は、やっぱりなんか間違ってると思う。逆に、宮崎学さんのように「もしも家族が殺されたら、死刑なんて願わん。自分の手で落とし前をつけにいく」の方がよほど理にかなっていると思うが、これはまた復讐が復讐を呼び…というどっかのハードボイルドの見本なのと、誰もが同じように「犯人殺したい!」と思うわけでもないと思うので、今時の死刑賛成論者の「被害者遺族の気持ちを尊重して」みたいな言い方には全面的に反対である。そんなものを他人がわかったように言うべきじゃない。しょせん、わしら第三者、野次馬根性以外に何があるっていうんだ。そんな奴が、テレビなんかでしたり顔に語らんでほしい。

平井は、金田の死と引き換えに生きていこうと思った。平井の部屋は殺風景だ。独身の中年男性ってこんなもんかと思うほど物がない部屋だ。そして平井自身も、こんなことでもなければ、全然目立たなかったし、笑うことも怒ることも泣くこともないままに、なんか一生終えてたんじゃないかって、無気力さが漂ってるのだ。でも、平井は美香と出会った。美香に「名前を一度も呼んでくれない」「私たちのことなんかどうでもいいのでしょう」と責められて、それでも「あなたと一生一緒にいるつもり」と言ってくれる美香や、継父になつかない6歳の達哉に向き合って、生きていこうとしている。そんな不器用な生き方しかできない平井と、おそるおそる触れ合おうとする達哉、そして平井の重い仕事を知って支えようとする美香、この話が描いているのは、私たちのすぐ隣りにいそうな、ごく平凡な、でも実は稀有の体験をしている夫婦なのだ。そこらへんが、小林薫さんと大塚寧々さんの好演で静かに静かに心にしみてくるのだ。

予告編で「クライマーズ・ハイ」をやっていた。なんですか、あの日航機墜落事件を取材した新聞社の話だとか。これも要チェックかな〜 その前に原作本読んでみるかな〜 いや、その前の原作の「休暇」を読まねば!
昨日の日記では刑務官・平井とその周辺しか語らなかったので、死刑囚・金田についても思ったことを書いておこうと思う。

演じるは西島秀俊さん。たきがはの観た映画だと「Dolls」ぐらいですかね。けっこうハンサムなはずなんだが、演じるのが死刑囚なもんで、逆に不気味っちゅうんですか。いや、いかにも死刑囚死刑囚な顔した人なんていないよね。それはテレビとかの見過ぎってもんで、そんなステレオタイプな顔なんかない。

彼が何のために死刑を宣告されたのかはわからない。ただ、最初の方で金田の牢に立つ幻の老夫婦、面会に来る妹、から鑑みるに、両親をぶっ殺したってところかな〜と思うのだが、実はそれは主題ではないので、最後まで明らかにはならない。
1回だけ弁護士が面会に来るのだが、これがやる気があるんだかないんだか、上申書を金田に書かせて、「もっと罪の重さを認識して」とか「十分反省しているように」とか言ってるアドバイスは、なんとも杓子定規っちゅうか、ビジネスライクな物言いがなんともやる気を削ぐ。さらに言うに事欠いて「引き延ばしておけば、そのうちに恩赦で出られるかも」とは、真っ当な弁護士とは思えん。
しかし、実は冒頭のシーンで、金田の死刑執行の書類が法務大臣まで廻され、はんこを押されるのが出てくるもんで、観客は金田が死刑にされることをすでに知ってしまっているわけである。ここまで来たら、もう逃れようがないのではないかと思うんだが、実際のところは知らない。だから、弁護士のやり方もちょっとむかつくシーンではあるんだけど、もう無駄なんじゃないかな、と思ったりするのはちょっと辛い。
そして、当の金田自身は、ほとんど騒ぎも起こさず、毎日をなんか無気力っぽく、ただ絵を描くことだけに情熱を傾けているように過ごしている。死刑というからには相当の犯罪を犯したと思われるが、今の彼は絵を描くことが好きな青年で、そのために三島主任は金田が雑誌から写真を切り取って絵のもとにしようとするのを黙認している。ほんとは違反なのに、金田のそういう一面を知って見逃している。

たきがはの好きな漫画「死刑囚042」に、こんな台詞があったんだけど、

「元々 人の考えなんて 自分の考えなんて はっきりしたものじゃないと思うんです。被害者にかかわれば被害者の気持ちに賛同し、加害者にかかわれば、また情のようなものが湧く。それが人情ですし人間だと…(中略)…ただ人の死は嫌だなあと思うだけです。それはそんなにいけないことでしょうか?」(「死刑囚042 第5巻」小手川ゆあ著・YJC・集英社刊)

金田に対する平井や三島や大塚の気持ちって、まさにこれなんじゃないかと思う。そして、実は観客も金田の犯した犯罪を知らないことにより、金田の日常や、刑務官という立場はあれど、人として何かをせずにいられない人たちの気持ちの方に寄り添えるんじゃないかと思う。
だからこそ、その金田の死刑という、避けては通れない事態に面した時、池内執行部長が結婚式を控えた平井を担当から外した心境もわかるのだし、それでも、これで飯を食っている以上、あえて支え役(というのは、死刑執行時に2階から落ちてきた死刑囚の身体を死ぬまで支える役だそうだ。そんな役があるなんて初めて知ったが、刑務関係のアドバイザーが元刑務官なんで、ほんとにあるんだろうと思うが、それにしても嫌な役ですね)という誰もが嫌がる役に名乗り出ることで、1週間の特別休暇をもらい、新しい家族と歩んでいこうとする平井の気持ちにも、人としてあまりに当然なところがあるだけにまた理解したいと思うんじゃないか。

死刑という風潮が叫ばれる現在、その影には人として苦悩する刑務官たちがいるはずだと思う。まるで手を汚さないで済んでいる人間にこそ、観て欲しい映画である。「厳罰化」を叫ぶ以前に、ちょっと想像力を働かして、考えてほしいと思う。

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