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されど平穏な日々

日々のつぶやきと読んだ本と見た映像について気まぐれに語るブログ。Web拍手のメッセージへのレスもここ。「Gガンダム」と「ジャイアントロボ」への熱い語りはオタク度Maxにつき、取り扱い注意! 諸事情により、コメントは管理人が操作しないと反映されません。時々、サイトの更新情報など。

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蟻の兵隊

1日に2本も映画見るなんて何年ぶりだ、たきがは。もう1本は「紙屋悦子の青春」こっちはおもしろかったんで、サイトの記事にしようと思います。岩波ホールに行くのは実に3年ぶりでした。

監督:池谷薫。出演:奥村和一ほか。

mixiとかでも「蟻の兵隊を観る会」とか広まったらしいんで、知る人ぞ知るかも。mixiのように見られる人が限定されるサイトでの宣伝にどれだけ効果があるのかは正直疑問ですが。たきがはの定期購読してる写真誌「DAYS JAPAN」の編集長、広河隆一さんもmixiやってるんだって。何で?
でも、たきがは、ちょっとこの映画、あかんです。ネタはいいんですが。カメラワークに酔いました。ハンディカメラでのふらふらした視点に、見終わったころには車酔いでげろげろでした(吐かなかったけど)。この監督、見るのは初めてなんですが、大勢の人に見せたかったら、こういうところ、直してほしいです。かなりしんどかったです(一緒に見た甥も「辛い」と言ってたので、わしだけではないと思うんだが)。甥は「映画よりもテレビで放送すれば、もっと大勢の人が見るんじゃないの」と言ってましたが、映画館に行くという時点で能動的な映画に対し、テレビの方はチャンネル合わせれば見られるという受動的なものですから、どっちがいいかというと、微妙なところだと思います。それにテレビはたいてい一日だけだからね。

敗戦後、中国山西省に残った部隊が、その後、4年間も国民党軍に加わって戦い、さらに抑留され、帰国したら、軍の命令で中国に残ったはずが、とっくに脱走兵扱いされてて、軍人恩給ももらえず、国を相手取って裁判を起こした、という事件を、その日本軍、奥村和一さんを中心に追いかけたドキュメンタリー。裁判は最高裁でも棄却された。

彼ら、第一軍が中国に残ったのは軍司令官と閻錫山の密約で、彼ら自身は日本軍の復興を信じて中国共産党と戦ったわけです。そこらへんの証拠は中国側には残ってまして、もちろん裁判にも提出されたんですが、A級戦犯でありながら、日本に逃げ帰った司令官、第一軍を脱走兵として切り捨てた国家、に象徴されるように、裁判所はそんな証拠には見向きもせず、言ってみれば一方的に司令官の言ったことを鵜呑みにして訴えを退けます。第一軍の兵士たちはそういう意味では国家の被害者なのです。なんで切り捨てられたかといえば、ポツダム宣言受諾後のことですから、武装解除してない軍隊が中国に残ってることは日本にははなはだ都合が悪いことだったんですね。無条件に受諾したはずのポツダム宣言を、即座に踏みにじってるわけですから。
ところが、奥村さんが中国に行って、縁の地とか見出すと、実は第一軍は中国の人たち、特に一般民衆にとっては加害者でもあるわけです。日本軍が新兵にやらせてた、中国人の刺殺、人を殺せる兵士になるための訓練、あるいは中国に抑留されているあいだに書いた手記で、自分のしたことを知って「鬼だ」と回顧する。その複雑さ。
そんな事実なども交えつつ、映画はとりとめもなく展開されます。ええ、たきがは、言います。どんなドキュメンタリーも生放送でない以上、演出があるのが当然です。それを「やらせ」とは言いませんが、演出があるということは、撮った映像を監督なりが取捨択一して、映画にしているわけですよ。その並べ方が正直、たるいです。この映画のクライマックスはどこでしょう? ドキュメンタリーにクライマックスなんてないと思いますか? いや、映画にした以上、監督がこのネタを選んだ以上、いちばん訴えたい映像、というのがあるはずです。なかったら、逆に変です。主張したいこともないのに映画撮るのは金と時間の無駄です。そういう映画がないとは言いませんが、どんな映像も、演出という手が加わった瞬間に客観的にはなり得ません。映像を取捨択一する編集をした以上、それは主観的なものです。それが悪いと言ってんじゃないすよ、念のため。
閑話休題。
おそらく、クライマックスはラスト近くの靖国神社でしょう。国家の犯罪を訴える奥村さんたちに対して、靖国にお参りする人びとの異常さは際立っています。冒頭の、靖国神社に何が祀られているかも知らないで初詣に来たというお嬢さんたちの、奥村さんが、実は敗戦後も中国で戦って、という事実を知らされた時の実に素直な反応に比べたら、軍服着て(たきがは、いまの時代に旧日本軍の制服着てる人たち、特に若い人見ると、ぞっとするんです。あの時代、その制服を着た連中がどんなことやってたか、わかってて着てるんだろうかと思って、それが無知であるならば、よけい。確信犯としてやってるなら、なんて厚顔無恥なんだろうと。格好いいとか以前に、その制服に象徴されるもの、わかってる? それはナチスの制服にも通じますが、趣味と片づけていいレベルじゃないと思いますよ。日の丸や君が代と同じものだと思いますよ)軍歌唄って、「英霊」などといけしゃあしゃあと靖国参りをする人びとの異常さは、日本という国が、戦後61年経っても、先の戦争を全然反省していない証拠を見せつけられているようで恥ずかしくなります。
ぶっちゃけ、「日本鬼子(リーベンクイズ)」という映画にもそういう靖国の姿は出たと思うんですが、奥村さんたちに対する異常さとして出されたような靖国であれば、そこで映画は終わってもいいように思いました。
それとも、奥村さんたちの裁判についてであれば、クライマックスはもっと違うところにもってくるべきでしょう。
あと、どうせ演出してるんですから、監督が奥村さんに話しかけるの、もっとスムーズにしてくれればよかったのに、と思います。耳障りでした。インタビューなのか、姿を隠したいのか、どっちかに徹してもらえませんか。演出してるのが悪いんじゃなくて、それが観客への配慮だと思いますよ。
いろいろと差し出される映像がどれも等価では、言いたいことが散漫な気がします。どれにも重きを置けないのであれば、どれも軽いのです。そういう「平等」な映画は、たきがはは忘れてしまうのです。「平等」というのは一見公平そうですが、全部、どうでもいいってことじゃないでしょうか。かなり乱暴な言い方ですが。現に奥村さんの名前をど忘れしました(←それもどうかと思いますが)。

だけど、これは日本人として忘れてはいけないことです。被害も加害も、私たちはきちんと理解して、国際的に受け入れられる共通の歴史観を打ち出すべきです。
その訴えをするのに一役買ったであろう映画としては、いささか訴えどころが弱かったような気がします。

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