水上勉著。新日本出版社刊。
花岡事件を扱った戯曲だと聞いたので読んでみました。全編秋田弁で書かれていて読みづらかったですが、わしも一応、言葉の根っこは福島だったりするので(影響を受けやすいので大阪とか広島とか高知とか九州とかいろいろ混ざってますが)、東北地方の言葉はなんとか読めました。
花岡鉱山の近くに釈迦内という町がありまして、そこにある架空の火葬場での話です。隠亡ってどこかで聞いた響きだなぁと思っていたら、石牟礼道子さん原作の能「不知火」だったか、他の小説に出てきた、やっぱり火葬場の管理人のことで、こういう名称は地方特有のものかと思っていたら、全国共通だったようです。で、花岡鉱山から逃亡した朝鮮人のことを、隠亡の娘が亡くなった父や家族との暖かい思い出として思い出すという筋書きでした。
朝鮮や中国から連行され、「
軍艦島」でもそうですが炭鉱などで強制的に働かせ、人間の扱いもしなかった日本人の中で、同じ日本人に差別される隠亡だけが、ただ優しく、人間のつき合いをしたという話は、著者自身がもともと、隠亡の出身で、子どもの頃に寺に入り、修行をしたけれど、却って生まれの貴賤によって宗教でさえ差別したという体験がもとになっているのでした。と後書きに書いてありました。
そういう身分による差別というのは、大元をたどれば天皇制に行き着くのであり、天皇を抱いている限り、日本から差別がなくなることはないと思います。
ただ、その根本を正面から指摘した作家というのは残念なことに日本には大変少なく、わりと皆さん、喜んで勲章とかもらっているのが現状です。水上さんはすでに故人ですが、生前に勲章をもらったことはありませんでしたが、死後に旭日重光章を授与されたそうで、そんなもの勝手に押しつけるなという思いはなかったんかなぁと思いました。
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