山本周五郎著。新潮文庫刊。
表題作のほか、「暗がりの乙松」「喧嘩主従」「彩虹(にじ)」「恋の伝七郎」「山茶花帖」「半之助祝言」「いしが奢る」「花咲かぬリラの話」「四年間」を収めた短編集です。うち、「暗がりの乙松」~「いしが奢る」までが時代物、残る2作は現代物です。
うち、「暗がりの乙松」は「宵闇の義賊」と同じテーマっぽい泥棒の話ですが最後で改心する人情物っぽい話。
残る時代物は武家物ですが、「彩虹」~「いしが奢る」までは武家の恋噺を据えて、いろいろなテーマの話を集めた感じ。その中で「恋の伝七郎」が下町物の風情もかもして異色、「山茶花帖」も女性の視点というところが異色です。
「花咲かぬリラの話」はどっかで読んだタイトルだと思っていたら「
艶書」にそのものずばりのタイトルで「花咲かぬリラ」とありましたが、中身は全然違いました。
「四年間」はちょっと「
静かなる決闘」を彷彿とするような話ですが、余命が決まっちゃってるのが違いますかね。まぁ、余命なんてのも怪しいもんだそうですが。
表題作の「雨の山吹」が、藩の公金を使い込んだ男やもめと、自殺をしたふりまでして駆け落ちした義妹のささやかな幸せが、最後のシーンでしみじみと響くのが良かったです。途中まで、妹を追いかける兄ちゃんが殺す気満々だったのが、タイトルのとおり、雨のなかで咲く山吹に妹夫婦を偲び、その幸せを願うところなんかが。
あと、「喧嘩主従」がさっぱりした読後感、「半之助祝言」はユーモア物って感じで好きでした。
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