スタンレー=ミルグラム著。山形浩夫訳。河出書房新社刊。
アイヒマン実験とも呼ばれる有名な心理学の実験の実録です。
アイヒマンの裁判が始まってハンナ=アーレントが「
イェルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告」を書いた時、人びとの反応は否定的なもので、むしろアイヒマンを悪魔的な人物に見たがったというのは今では有名な話です。もっとも、実際に「
スペシャリスト〜自覚なき殺戮者」見てるとあんまり退屈で退屈で居眠りぶっこいたたきがはとしてはその最大の原因はアイヒマン本人の凡庸さにあると思いましたが、それはそもそも最初にアーレントの唱える「悪の凡庸さ」を知っていたからで、たかが2時間ほどのドキュメンタリーでわかるような物ではないのかもしれませんが、しかしアイヒマンがほとんど最後に捕まったナチスの高級官僚で、その裁判が退屈なわけない、なにしろ主題はホロコーストとそれを指揮していた男なんだぞ!と期待満々で見に行った初見を思うと、やっぱりそれもあながち的外れじゃないと思えるのです。
で、エール大学の心理学教授のミルグラムさんが、人はどんな条件のもとで実験者の被害者を傷つけるような命令に従うのかという仮定のもと、応募してきた老若男女に対して行った実験の記録なのです。
結果はまぁ、予想どおり(今の時代では)。過半数を超える人びとが被害者に(そうとは知らないまでも)罰として最大の電圧を与え、なかには被害者が死んでもかまわないと言い張った被験者や奥さんに「あなたはアイヒマンよ」と言われた被験者もいたとか。
個人的には著者が目を向けるのがホロコーストの後はベトナムになるのはしょうがないとしても、訳者がしらっと日本すっ飛ばしてる点が気になりました。
あと、県立図書館、なんでこの本がビジネスなのだ… ジャンル分けが不便で、ちゃんと十進分類法で並べてほしい。探しにくいったらありゃしない。
気になったのは以下の箇所。以下引用。
多くの被験者は、被害者を害する行動をとった結果として、辛辣に被害者を貶めるようになっていた。「あの人はあまりにバカで頑固だったから、電撃をくらっても当然だったんですよ」といった発言はしょっちゅう見られた。いったんその被害者に害をなす行動をとってしまった被験者たちは、相手を無価値な人間と考え、罰が与えられたのは当人の知的・人格的欠陥のせいなのだと考えるしかなくなっていたのだ。
いまの時代に生きる人は、だれも二度と権威への服従を当然のこととは考えまい。そしてだれかがそう考えたなら、それはその当人にとって危険を冒しているのであり、そしてその国にも危険をもたらしかねないということを、われわれはいまや十分に知っているのである。
引用ここまで。
同じような状況に直面した時に自分の良心に恥じない行動が取れるようになりたいものです。
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