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されど平穏な日々

日々のつぶやきと読んだ本と見た映像について気まぐれに語るブログ。Web拍手のメッセージへのレスもここ。「Gガンダム」と「ジャイアントロボ」への熱い語りはオタク度Maxにつき、取り扱い注意! 諸事情により、コメントは管理人が操作しないと反映されません。時々、サイトの更新情報など。

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玄界灘ほか

金達寿著。〈在日〉文学全集1。磯貝治良・黒古一夫編。勉誠出版刊。

やっと本命の「玄界灘」が収録された本を見つけました。ほかに「富士の見える村で」「公僕異聞」「朴達(パクタリ)の裁判」を収録。

で、「玄界灘」から読み始めて、どうしてこの話が読みたかったのか思い出したのですが、「太白山脈」の前日譚だと知ったからだったのでした。ただ、当の「太白山脈」は、その後で読んだ大本命の「太白山脈 第7巻」のおもしろさにほとんどすっ飛んだので、それほど意固地になって「玄界灘」を読む必要もなかった感じもしましたが、他に収録された「富士の見える村で」と「朴達の裁判」が良かったので、プラスマイナスで良しとします。

残念なことに「太白山脈」はそういうわけでほとんど登場人物たちのことは忘れておりまして、ただ、右翼と左翼の話が交互に書かれていたなというのは覚えていました。あと、けっこう中途半端なところで終わったという記憶もありましたが、これはわしが日本敗戦後の朝鮮の歴史を

朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国、相次いで設立
南だけの単独選挙
済州島(チェジュド)四・三事件
麗水(ヨス)・順天(スンチョン)事件
朝鮮戦争

という大きな事件に沿って覚えていたためで、話としては一応、決着はついていたようですが、「玄界灘」の主人公2人、西敬泰(ソ=ゲエンテエ)、白省五(ビエク=ソンオ)がどういう登場の仕方をしていたのかは覚えていないのでした。とほほ…
かといって、もう一回読み直そうとも思わないのは、「玄界灘」があんまりおもしろくなかったからなのでした。

「太白山脈」は解放後の朝鮮から始まりましたが、「玄界灘」は戦争末期、1943年のソウルを舞台にしています。そして日本帰りの西敬泰と、大地主で道知事まで務めた父を持つ両班の子息、白省五が交互に語られることで話は進んでいきます。
ちなみに作者の出身地は南の慶尚南道(キョンサンナムド)、つまり釜山周辺(釜山含まず)なのですが、北特有の発音だと聞いた「李」をイと読ませず、リと読ませるのはどういうことなんかなぁと思いました。それとともに、朝鮮人固有名のルビの振り方が、いちいち「太白山脈」と微妙に食い違うもので、まぁ、こちらの作者の趙廷來(チョウ=ジョンネ)さんは全羅南道(チョルラナムド)、つまり慶尚南道の西側なんでお隣なんですけど、そんなに発音が食い違うのか、わしも朝鮮語は囓っただけで詳しくないのでよくわからないんですが、違和感を感じました。
と同時に、白省五の人物像がまるっきり「太白山脈」の金範佑(キム=ボム)だったり、「火山島Ⅵ」の李芳根(イ=バングン)だったりしたもんで、こういう良家の若様が民衆のあいだに入り込むという図式は朝鮮では人気が高いのかなぁと思ったりしました(「春香(チュニャン)伝」の李夢龍(イ=モンニョン、作中ではリ=モンリョン)みたいな)。特に、最初のうちは、うちのなかで四六時中寝てばかりいるというところなんかは、うちのなかで四六時中酒ばっかかっくらってる李芳根を彷彿とさせましたし。
それだけに、実は罠だったんですけど、李承元(リ=スンウォン)によって共産主義に目覚め、活動し、最後は検挙されて拷問を受けるところなどはおもしろいと言うのも語弊がありますが、「太白山脈 第2巻」にて、国会議員の崔益承(チェ=イクスン)に楯突いたために拷問を受けた金範佑と似たシチュエーションで(戦中と戦後なんで事情は全く異なりますが)興味深く読んでましたけど、もう一人の主人公、西敬泰の章になると彼にも事情はたくさんあるんですが、あと、後で著者の引き写しと知りましたが、それだけに九割ぐらいは自分の就職にだけ汲々としていて、金日成も知らない、京城日報社のこともよく知らない、言ってみればあまりに不勉強で世間知らずの西敬泰の人物があんまり幼く思えて、つまらなかったのでした。朝鮮半島から日本に渡り、屑拾いから初めて地方紙の記者にまでなった西敬泰が、やっと京城日報社を辞める決心をして白省五に面会に行ったところで終わったのは、やはり作者の経験の投影なんでしょうが、続く「太白山脈」でこの二人、どうなったんだっけ…

と、まるきり消化不良の「玄界灘」は置いておいて、良かった方の感想も。

「富士の見える村で」は被差別部落を訪れた在日の「私」たちがさらなる差別を受けるという、日本の差別の複層的な構造を鋭く描いた短編です。途中までは牧歌的な雰囲気とか、岩村という人物の醸し出す泣きたいようなユーモアさとかで、ほのぼのとした話だったのに、岩村のために色紙を書くことになり、そこにいた岩村以外の人物たちが全て在日だったことを知って、長い間、差別されていた部落民である岩村の家族たちが向ける蔑視、差別されてきた者たちがさらに自分たちの下と考えて差別するという救いようのない構図が痛い話でした。
マジョリティである日本人は、ちょっと、こういう話は思いつかない…

部落というと、わしはまず「橋のない川」を思い出しますが、あの話は日露戦争後(主人公兄弟の父が「名誉の戦死」を遂げているので)の奈良から始まったので、もうとっくに朝鮮は植民地化されていたわけですが、特に朝鮮人は出てこなかったような気がしますが、あれも長い話なのでどうだったろう…

「朴達の裁判」は作男から身を起こし、たまたま検挙されて放り込まれた留置所で、共産主義に出会い、文字を知り、勉強していった朴達(本名は朴達三)が起こす闘いをユーモラスな筆致で描いたもので、最後、朴達はついに有罪判決を受けてしまいますが、その代わり、裁判を傍聴する仲間たちの存在、大切な妻が心強い戦友だったと知り、さらに勇気をもって、次の闘いへ踏み出すだろうというところで締めくくってます。
朴達の人物像がふざけているようで、御上をからかっているようで、すごくいいですね。捕まるたびに「転向」して出てくるという知恵の働かせ方もすこぶるナイス。時代は朝鮮戦争休戦後なので、左に対する締め付けは厳しくなっていく一方なのですが、あの国のどこかにこんな人物がいたかと思えるのは嬉しいことです。

ところで「太白山脈」であれこれ検索していたら、さらに戦中に書かれた「太白山脈」もあったようで、そのうちに読んでみようと思います。

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