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されど平穏な日々

日々のつぶやきと読んだ本と見た映像について気まぐれに語るブログ。Web拍手のメッセージへのレスもここ。「Gガンダム」と「ジャイアントロボ」への熱い語りはオタク度Maxにつき、取り扱い注意! 諸事情により、コメントは管理人が操作しないと反映されません。時々、サイトの更新情報など。

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砂のクロニクル

船戸与一著。毎日新聞社刊。

初船戸作品でした。

イラン・イラク戦争が終わった直後のイラン。武器商人のハジは、イラン国内のクルドに武器を密輸するよう頼まれ、遙かロンドンからロシアを経て、旧式のカラシニコフを運ぶ。一方、かつてイランの左派フェダイン・ハルクに身を置き、片足を失った日本人ハジもクルド族とともに暮らしていた。イラン・イスラム革命の理想に燃える若き戦士サミル=セイフの戦いと葛藤の日々。クルド族の聖地奪還はなるのか?

壮大な物語です。そして、小説でありながら、世界最大の国を持たぬ民族クルドについて、これ以上わかりやすく書かれた本もないです。
また一方で、革命というものが総じて追う内部の腐敗を、若き戦士サミルに託して見せ、それでいてフェダイン・ハルクに所属していた(つまりイラン・イスラム革命政府とは対立する)姉のシーリーンとの再会を通して、何か、登場人物の誰もが避けがたい悲劇に向かっていく。そんな小説です。

ここには爽やかな読後感はなく、むしろ「蝦夷地別件」に近い展開ではあるのですが、これだけ壮大に広げられた風呂敷が悲劇的な結末に向かってたたまれていくさまは大作を読んだなぁという満足感さえ得られます。

後のバイオレンスとエロはかなり薄めなんで、入門としてはお奨めの一冊かも。

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山猫の夏

船戸与一著。講談社文庫刊。全2巻。

最後の船戸小説です。レビューの順番はばらばらですが。

たきがは的にはいちばん好きな船戸小説で、主人公・山猫はいちばん格好いい船戸キャラです。異論は認めません。私的には40代ぐらいの原田芳雄さんに是非演じていただきたかったのです。そういう風貌で読んでます。白黒まだら髭の身長180cm以上、引き締まった肉体としわがれた声の持ち主、山猫こと弓削一徳(ゆげいっとく)はそんなキャラです。

いちばん好きな部分は山猫のキャラに負うところが大きく、これだけ壮絶に人が死ぬ小説(船戸小説の中でも最多ではなかろうかと)でありながら、読後の爽快さもひとえに山猫ゆえです。

ブラジル東北部ペルナンブコ州のエクルウという町まで流れたおれは31歳の日本人。亡き叔父の妻マーイ・マリアを頼って、その経営する「蜘蛛の巣」という食堂兼酒房に居座り、マーイの姪ソフィアといい仲になりながら、なんという目的もない生活を送っていた。そんな暮らしは、ある日、山猫と名乗る日本人、弓削一徳の登場で一変する。山猫はエクルウの町を支配するビーステルフェルト家の長女カロリーナが、ビーステルフェルト家の宿敵アンドラーデ家の長男フェルナンと駆け落ちしてしまったので、カロリーナを取り戻す捜索隊のリーダーとなる。おれは強引に山猫の助手とされ、前払い金50万クルゼイロをマーイが勝手に使ってしまったためもあって、渋々、山猫に従う。厳しい東北部の気候下、山猫はカロリーナとフェルナンに追いつくが、すでにフェルナンは山賊たちに殺されており、アンドラーデ家の仕立てた捜索隊と戦闘になるが、無事、カロリーナを連れてエクルウに戻ってくる。だが、ビーステルフェルト家の経営する農園を40億匹ともされる大量に発生したバッタが襲い、ビーステルフェルトは支払いを渋る。しかも、山猫の目的はビーステルフェルトの支払う捜索費ではなく、ビーステルフェルト・アンドラーデ両家の資産の半分だと言うのだ。やがて、フェルナンの死を山猫に知らされたアンドラーデ家が戦いを仕掛け、元々両家について真っ二つに割れていたエクルウの町も、その名のとおり、住人同士が争うことになっていくのだった。

ちと長く書きましたが、「ロミオとジュリエット」ばりの対立する両家の好き合う同士の追跡劇は、この物語の半分以上を占めていますけど、主題ではありません。山猫の目的は最初からビーステルフェルト・アンドラーデ両家の資産の半分、23億クルゼイロを手に入れることだったのです。まぁ、その目的は後半にならないと明らかにされない上、ラストまで、山猫がそれだけの金を何に使おうとしていたのかもわかりません。

この話、とかく人が死にます。山猫が殺した連中も多数いますが、ニュースの中でもやれ調査隊や観光船が行方不明になったと流れ、そのたびに山猫が高笑いします。登場人物の一覧が冒頭にありますが、このうちの2/3は物語の最後には生きていません。それ以外にも粗筋で書いているように、町の住人が殺し合います。まぁ、何とも壮絶な話です。
それらの死をお膳立てしたのは、ニュース以外はほとんど山猫です。では山猫は救いようのない極悪人でしょうか?

しかし、エクルウの町は、もともとビーステルフェルト家とアンドラーデ家の抗争が何十年も前から続いており、「ロミオとジュリエット」のように最後、和解するという甘い展開にはなりません。もっとも駆け落ちしたカロリーナとフェルナンのカップルはそれを期待しているわけですが、両家の当主によって即座に否定されます。不倶戴天の敵同士です。
そして、エクルウの町も、両家に沿って、真っ二つに分かれています。一方はビーステルフェルト家しか相手にせず、一方はアンドラーデ家しか相手にしません。小さな町ですが、それで成り立っています。同じ店が2軒ずつある、おかしな町です。
でも、町に1つしかない店もあります。それが語り手のおれが働く食堂兼酒場、蜘蛛の巣と、娼館・赤の館です。それに、教会、警察、軍も1ヶ所しかありません。1ヶ所しかないということは、これらの5種については、まぁ、警察と軍は公共機関なわけですが、両方の住民から利益をあげられ、一方的に儲けているという図式です。
実際、エクルウでビーステルフェルト家とアンドラーデ家が何十年も小競り合いをやっていられるのは、たとえ殺人が起きても警察が介入しないからであり、軍が見逃すからでもあるのです。

山猫は、この両家の一見、不倶戴天の敵同士のようでいて、実はどっちもどっちかが倒れるまでやらない、本格的な戦いになることがない関係に亀裂を入れます。町もそうです。何でも2軒ずつ店があるおかしな町の住人たちも、せいぜいいがみあう、互いの商店で買わない、物を売らない程度の対立を殺し合いにまで進めます。エクルウという町の名のとおりに。

エクルウというのは、かつて、ブラジルに連れてこられた黒人奴隷たちの言葉で「憎悪」という意味です。そういう意味深な町は、当然、現実にある町ではありませんが、同じ部族の言葉で憎悪を意味する「エシュウ」という町は実在しています(ただし、2005年現在、現地を旅した人の日記によると、血なまぐさい抗争は起きてないそうです、表面上は)。

長年、ビーステルフェルトかアンドラーデについて、互いにいがみ合ってきたエクルウの人々の歪んだ憎悪に、山猫は火をつけました。両家の資産の半分、23億クルゼイロをかっぱらうために。

その理由とか、語り手おれの成長とか、とにかく格好いい小説です。

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蟹喰い猿フーガ

船戸与一著。徳間文庫刊。

文庫にして600ページ超の長編小説を、通勤時間の行き帰りで読んでしまいました。長い通勤も悪くないと思いますが、問題は会社の帰りに図書館に行ってる時間がないということです。

湾岸戦争の勝利に沸くアメリカで、元日本ジュニア・ミドル級チャンプのおれは詐欺師の老人エル・ドゥロと知り合い、運命が転換していく。やはりエル・ドゥロに騙されたという女子プロレスラーのキャンデスとジョニファ、ホームレスの少年メッキー、20万ドルを騙し取ったウォーカーの元秘書マーゴを加えた一行が、エル・ドゥロのライバル・ファッティ・ザ・ラトラーことグレゴリー=ラムズベキを助けたことで2000万ドルを狙う大博打に打って出る!

何ともテンポのいい痛快な詐欺師小説。1995年のロンドンで、今や二代目のエル・ドゥロを名乗るようになった「おれ」が語るエル・ドゥロとその一味の出会いと別れ、大博打の顛末は、上記のように仲間を加えつつ、アリゾナ州からフラッグスタッフ、デンヴァー、そしてニューヨークへと舞台を変え、徐々に大きな勝負に挑むことになっていきます。

壮絶な戦いの果てに登場人物の何人かが死んでしまいますが、それでも後味の良さは最近の船戸小説にはなかなか見られなくなっているので、またこういう話を書いてもらいたいものです。

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緑の底の底

船戸与一著。講談社文庫刊。

船戸作品で二番目に格好いいカルドキナが出てくる話です。いちばん、無垢な主人公と言い換えてもいいです。

マサオ・コサカはベネズエラ生まれの日系三世。尊敬する叔父のエイジ・コサカは人類学者で、オリノコ河源流の調査にマサオも連れてきたところだ。叔父は凶暴な白いインディオの調査に向かうのだが、その助手の3人も、人類学の雑誌の記者だというキャサリンもどこか胡散臭さを漂わせているのだった。

マサオは地元ベネズエラの首都カラカスにある大学の学生で、シンクレアという将来を約束し合った恋人はいるものの、政治的な思想は持たず、このままベネズエラで弁護士になり、平穏な暮らしをしてもいいが、危険を求めて見たこともない父祖の地、日本を訪れてみたいと思う平凡な青年です。だから、叔父のエイジの見せかけだけの格好良さに惹かれ、その助けをしますが、インディオの青年カルドキナとの出会いから己の偏見に気づかされ、その真っ直ぐな心を失わないまま、白いインディオの真相を知っていきます。
と同時に、叔父が東京を批判したのが如何に浅いものだったか、白いインディオについても如何にでっち上げたものだったかを知り、全てが終わってただ一人、生き残った時にも、このままカラカスに帰れば、何が自分を待っているのかまでわかるほど成長したのでしょう。そして、カルドキナたちに混じって生活していくことを選んだのでしょう。

船戸作品にしては珍しいくらい、読後感の清々しさが印象的な一冊。

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猛き箱舟

船戸与一著。集英社文庫刊。上下巻。

船戸与一氏の最高傑作。

世界の辺境での事件の取り込み方のうまさ、主人公の成長を描いたビルドゥングス・ロマン、ハードボイルド小説、冒険小説。船戸与一氏が得意とする血と硝煙と破壊の全てが詰まっていて、しかもそれらが最高におもしろいのだ。
私的にいちばん好きな船戸小説は「山猫の夏」であるが、船戸与一の最高傑作としてお奨めしたいのはこの小説である。

ハードボイルド好きならば読め。

血と硝煙を読みたいならば読め。

世界の辺境で何が起こっているのか知りたいならば読め。

なんか、ごちゃごちゃ粗筋を書いても却って、この小説に泥をかけそうなだけな気がするので、読めとだけ書いておしまい。

ただ、解説にも書かれているけど、レイモンド=チャンドラー系のハードボイルドが好きな向きにはお奨めしない。というか、チャンドラーをハードボイルドと思い込んでいる向きにはお奨めできない。本物のハードボイルドが読みたい方に。

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