船戸与一著。毎日新聞社刊。
初船戸作品でした。
イラン・イラク戦争が終わった直後のイラン。武器商人のハジは、イラン国内のクルドに武器を密輸するよう頼まれ、遙かロンドンからロシアを経て、旧式のカラシニコフを運ぶ。一方、かつてイランの左派フェダイン・ハルクに身を置き、片足を失った日本人ハジもクルド族とともに暮らしていた。イラン・イスラム革命の理想に燃える若き戦士サミル=セイフの戦いと葛藤の日々。クルド族の聖地奪還はなるのか?
壮大な物語です。そして、小説でありながら、世界最大の国を持たぬ民族クルドについて、これ以上わかりやすく書かれた本もないです。
また一方で、革命というものが総じて追う内部の腐敗を、若き戦士サミルに託して見せ、それでいてフェダイン・ハルクに所属していた(つまりイラン・イスラム革命政府とは対立する)姉のシーリーンとの再会を通して、何か、登場人物の誰もが避けがたい悲劇に向かっていく。そんな小説です。
ここには爽やかな読後感はなく、むしろ「蝦夷地別件」に近い展開ではあるのですが、これだけ壮大に広げられた風呂敷が悲劇的な結末に向かってたたまれていくさまは大作を読んだなぁという満足感さえ得られます。
後のバイオレンスとエロはかなり薄めなんで、入門としてはお奨めの一冊かも。
[0回]
PR