船戸与一著。講談社文庫刊。
船戸作品で二番目に格好いいカルドキナが出てくる話です。いちばん、無垢な主人公と言い換えてもいいです。
マサオ・コサカはベネズエラ生まれの日系三世。尊敬する叔父のエイジ・コサカは人類学者で、オリノコ河源流の調査にマサオも連れてきたところだ。叔父は凶暴な白いインディオの調査に向かうのだが、その助手の3人も、人類学の雑誌の記者だというキャサリンもどこか胡散臭さを漂わせているのだった。
マサオは地元ベネズエラの首都カラカスにある大学の学生で、シンクレアという将来を約束し合った恋人はいるものの、政治的な思想は持たず、このままベネズエラで弁護士になり、平穏な暮らしをしてもいいが、危険を求めて見たこともない父祖の地、日本を訪れてみたいと思う平凡な青年です。だから、叔父のエイジの見せかけだけの格好良さに惹かれ、その助けをしますが、インディオの青年カルドキナとの出会いから己の偏見に気づかされ、その真っ直ぐな心を失わないまま、白いインディオの真相を知っていきます。
と同時に、叔父が東京を批判したのが如何に浅いものだったか、白いインディオについても如何にでっち上げたものだったかを知り、全てが終わってただ一人、生き残った時にも、このままカラカスに帰れば、何が自分を待っているのかまでわかるほど成長したのでしょう。そして、カルドキナたちに混じって生活していくことを選んだのでしょう。
船戸作品にしては珍しいくらい、読後感の清々しさが印象的な一冊。
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