船戸与一著。新潮社刊。
2・26事件も含む激動の第4巻です。
それまで中国東北部をまったく別々に活動していた敷島4兄弟が、徐々にすれ違ったり、同じ町にいたり、一緒に行動したりするようになってきました。同じ人物に別々に関わったりして、錯綜し始める運命。
しかし、この長大な物語はまだまだ終わる気配を見せません。きっと満州国が日本の敗戦で失われるまで書かれるのでしょう。その時、敷島4兄弟はどこにおり、何をして、何を考えているのか、興味深いです。ただし、武闘派の次男と三男は、どっちかが確実に死んでそうな気がするんですが… 特にアウトローの次郎は危なっかしい。三郎も、憲兵隊だけど、安穏と日本には帰らなさそうで… 逆に頭脳派の長男と末っ子は最後まで生き延びるんじゃないかと思ってるんですが、特に長男は外務省の官僚だし。ただ、サプライズで四郎死亡とか、太郎だけ帰国とか、なにしろ船戸小説なんで、そこら辺は最後まで余談を許しませんw
太郎はずーっと奉天領事館に勤務。最後まで動かなさそうな気配。息子を失い、妻とセックスができないと悩んでいたけど、この巻で復帰。
次郎は相変わらず満州のあちこちを放浪。前巻で助けた満人旗人の娘が阿片中毒になったというので治療を受けさせる辺り、優しい人ですが、そのために特務機関のイヌになるのは何とも複雑。ていうか、次郎がいまのところ、いちばん気に入ってるもので… でも、ラストで中国共産党の工作員に接触、その信念の強さを見せられたことで、兄弟の中で唯一、中国のために戦うなんて選択肢もあっていいと思うんだが…
三郎は相変わらず憲兵隊。なにしろ輝かしい憲兵隊の星になっちゃって、めでたく大尉に昇進、奥さんも懐妊したようで、表面的にはいちばん順風満帆な人生。しかし新京に引っ越したし、憲兵隊の任務は奥さんに言えるようなことじゃないし、奥さんとすれ違っちゃったりするんだろうか。船戸小説だしな。
四郎は新聞記者に転職。しかし、本人、自分の流され人生に嫌気がさしていても、「人から与えられた仕事しかしたことがない」と嘆いても、言われるままに動いてます。ささやかな抵抗として、中国人向けの親日新聞の中で反日とは言わないまでも中立的な記事を書こうとしてますが、まだ採用にはなってないらしい。この先、南京大虐殺を目撃するそうなんで、それでどう転ぶかが見物。兄弟の中では、もともとアナーキストの劇団に所属していたこともあるんで、中国の共産党には近そうなんだけど、特務機関にいいようにこき使われているので、今のままでは難しそう。
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