船戸与一著。講談社刊。
久々に読みました、船戸作品。図書館から借りてきて一気読み、それぐらいの勢いがこの人の小説にはあります。ちゅうか、「龍神町龍神十三番地」でちょっとがっかりして離れていたのですが、また船戸節が復活〜!って感じで、おもしろかったです。
出番は多くありませんが、鳶の元棟梁・梶井鉄平の造型がいい。男が惚れる男って描写が伝わってきます。
そして、山沖航史も、若いながら機転も利いて、行動力もあって、肝っ玉も据わってるところが、往年の船戸小説の主人公たちを思い出させてまる。
狂言廻しである「わたし」はそれほど格好良くありませんが、血なまぐさい事件に巻き込まれるうちにだんだんアウトローになってく構図は「山猫の夏」の「俺」を思い出しますなぁ。
中国人女性を、日本の農家の男性に斡旋するというNPOを主催していた主人公が、斡旋した中国人女性の1人に逃げられたってことでやくざにつきまとわれ、巻き込まれていきます。いったい、どんな事件があるのかとページをめくるうちに、だんだん極東、ロシア、日本、中国、それに北朝鮮まで巻き込んだ国際的な陰謀と事件に発展していくスケール感は相変わらず。このスケールの大きさが船戸与一さんですよ。
ただラスト、「山猫の夏」のような爽快感で終わらなかったのは、「伝説なき地」だったかな、当たりから、船戸作品に共通の諦めた感といいますか、どんなに大きな組織でも決して勝てない国家という巨大な組織への敗北といいますか、そんな感じがするなぁ。
名前が言われるだけでまったく登場しなかった女性が、誰よりもたくましく、ラスト、生き延びていくというのも、女性キャラがとかく飾り物になりがちな船戸小説では珍しいとも言えます。ただ、そういうつながりをまったく思いつかずに読んでいたわしは、まだまだ、なんか根っこのところが甘ちゃんだな〜と思ったり。
このまま「緋色の時代」も読む。久しぶりに船戸小説制覇といきましょう! 久しぶりに「山猫の夏」と「猛き箱舟」と「砂のクロニクル」「蝦夷地別件」「蟹喰猿フーガ」も読み直したくなったぞ! ちゅうか、読め、俺!
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