監督:黒澤明
出演:八木原幸枝(原節子)、野毛隆吉(藤田進)、八木原教授(大河内伝次郎)、毒いちご(志村喬)、野毛の父(高堂国典)、野毛の母(杉村春子)、八木原夫人(三好栄子)、糸川(河野秋武)、ほか
日本、1946年
たきがはの黒澤映画ベスト5(と言いつつ、実は6本あったりする(爆))に必ず入る1本です。わしは原節子さんは一等好きな女優さんで、何といっても小津映画よりも黒澤映画の方がキャスティング的に好きなもので、原さん追悼に見るとしたら、これだったのでした。もう何回も見てるんですが。本当は見たことのない「麦秋」を見たかったんですが、TSU○YAに置いてなかったんで、機会があったら見ます。「東京物語」が珍しくテレビでかかったようですが、1回見たんでもういいです。あと、小津映画で特徴的な物分かりのいい聖女のようなお嬢さんという原さんのキャラクターはあんまり好きじゃないんで、美輪明宏が「実は原さんはけっこう強気な女性だった」と言っていたとおりに、高貴で我が儘で、奔放に周囲を振り回して、どこまでも美しく、たおやかな原さんを描いた黒澤監督のがずっと好きなのです。
ちなみに黒澤監督の原さん出演の映画だと「
白痴」のが好きだったりしますが、あれが原さんの演じた女性像の集大成だと勝手に思ってますが、「わが青春に悔なし」もやっぱり好きです。なんと言っても、原さんをここまで泥まみれにした脚本がいかしてます。しかも何ヶ月か牢に入ってやつれてもいます。けれど、それでも原さん演じる幸枝は、どこまでも凛として立っており、野毛の妻、スパイの妻、売国奴の情婦と後ろ指を指されようが、決して屈することなく、それまで農作業なんてやったこともないであろう大学教授のお嬢様が野毛と父の言葉を胸に、ただ意地と誇りを胸に野毛の母とともに田んぼに立つというあの姿がどこまでも美しく、高貴なのだと思うからです。そう、幸枝は美しい。泥にまみれていようと、襤褸をまとっていようと、その眼差しはどこまでも真っ直ぐで、美しい。と同様に、原さんもまた、どんな役柄を演じていても美しく、ただお一人の希有な女優さんとして立っていられる、そういうのを描いたのは小津監督ではなく、黒澤監督だと思うので、わしは黒澤映画に出演した原さんが圧倒的に好きですし、何度も見返したいと思っています。
そういうファンなもんで、原さんが身体を売らざるを得なかった那須妙子という女性、作中の誰よりも傷つき、傷つけられ、誰よりも救いを求めているというのに、ただ、初めて会った無二の魂、亀田を汚したくないと身を引く、という「白痴」が大好きだったりします。集大成というのはそういう意味です。わしの好きな原さんの演ずる女性が全て詰まってるということです。
なもんで、義理の両親にただ優しい「東京物語」の嫁とか、行き遅れの娘と父親とのふれあいの「晩春」とか、あんまり高評価してません。世間的にはああいうお嬢様像の方が原さんの印象は強いのでしょうが。
原節子さんのご冥福を改めて、お祈りします。これからも、いちばん好きな女優さんです!
たんぽこ通信 映画五十音リスト
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