吉村昭著。文春文庫刊。
twitterで流れてきたんで、そうでなくても吉村昭さんといったら、わしのなかでは「破獄」「戦艦武蔵」などの膨大な資料を下敷きにした緻密な構成の歴史物を書く作家、という認識なのでその作風には信頼を置いています。「関東大震災」もそのような流れと思われたので読んでみました。
1923年、相模湾を震源地とし、首都圏一帯に壊滅的な被害をもたらした関東大震災を多面的に描いたドキュメンタリーです。
特に朝鮮の人びとを多く殺した流言飛語について、その発生と当時の日本人の心理状況を描いたところがいちばん読みたかったので、その精神は現在の日本における特に朝鮮の人への差別意識にも繋がるものだと思ったので引用してみます。
「日本の為政者も軍部もそして一般庶民も、日韓議定書の締結以来その併合までの経過が朝鮮国民の意志を完全に無視したものであることを十分に知っていた。また統監府の過酷な経済政策によって生活の資を得られず日本内地へ流れこんできていた朝鮮人労働者が、平穏な表情を保ちながらもその内部に激しい憤りと憎しみを秘めていることにも気づいていた。そして、そのことに同情しながらも、それは被圧迫民族の宿命として見過ごそうとする傾向があった。
つまり、
日本人の内部には朝鮮人に対して一種の罪の意識がひそんでいたと言っていい。
(中略)ただ
日本人の朝鮮人に対する後暗さが、そのような流言となってあらわれたことはまちがいなかった」
その後ろめたさを持たぬ若者が右傾化するのはある意味、当然のことかもしれません。敗戦に至るまで明治維新からの歴史をきちんと学ぶべきだと思います。「終戦」などという言葉で誤魔化さないで「敗戦」と伝えるべきです。作中に「終戦」と書いてあって吉村昭おまえもかと思いかけましたが、掲載誌が「諸君」だった時点で察するべきでした。
名著です。
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