山本周五郎著。新潮文庫刊。
とりどりの時代物と現代物2作を収めた短編集です。
表題作のほか、「宗太兄弟の悲劇」「秋風不帰」「矢押の樋」「愚鈍物語」「明暗嫁問答」「椿説女嫌い」「花匂う」「蘭」「渡の求婚」「出来ていた青」「酒・盃・徳利」の11編が収められてます。
現代物のうち「出来ていた青」は推理物ですが、推理の過程が少々唐突のきらいがあります。ただ、山本さんは「寝ぼけ署長」というミステリの短編集だったかもあるらしいので、ミステリにはそれなりに興味があったようですが、殺されたヒロインが性的に堕落していたという設定が再三語られるのがかなりくどく、いまいち。
「酒・盃・徳利」は、落ちもないような話でしたが、どうやら貧乏な青年に託した私小説っぽいです。ただ、いまだに「青べか物語」に食指が動かないのは、この方の現代物にはあんまり興味が湧かないからなので、半分くらい愚痴のようなこの話もおもしろくなく。
「宗太兄弟の悲劇」「秋風不帰」「矢押の樋」「蘭」が武家物で、武家ならではの悲劇が主題な感じ。特に巻頭の「宗太兄弟」は、ちょっと酒癖の悪い親父を持ってしまった兄弟の敵討ちの悲劇が「阿部一族」なんかとはまた違った感じの悲劇。
「蘭」は、親友のために犠牲になる友情とかも感じられます。
「矢押の樋」は軽率に振る舞う武士が命を賭して藩を救う話で、こういう「能ある鷹は爪を隠す」はけっこうお好きだったのかなと。
「愚鈍物語」「明暗嫁問答」「椿説女嫌い」「花匂う」「渡の求婚」はそれぞれ武士が嫁を娶る話なんですが、頑固な叔父を説得すべくあの手この手の「明暗嫁問答」ではヒロイン、お笛さんの凛とした美しさが良く、山本ヒロインではわりとよくある感じ。
「愚鈍物語」も「愚鈍」と言われた主人公の話は「矢押の樋」に通じる部分もありますが、もっとユーモラス。
「椿説女嫌い」になっちゃうと、女嫌いの勘定奉行と強面のお局がなんだかんだで結ばれちゃう話がまたユーモア満載。
表題作の「花匂う」は、想っていた女性を親友に譲った主人公が、親友の死後、彼女と結ばれるくだりを叙情たっぷりに描いた秀作。
「渡の求婚」は天邪鬼な渡を求婚させるために周囲が骨を折るユーモアと、わりとユーモア系が多かったりしました。
多くの話が戦中の作で、戦争中も意欲的に発表していた周五郎さんの作家としての姿勢がうかがえます。
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