山本周五郎著。新潮文庫刊。
傑作「
樅ノ木は残った」の前年に書かれた田沼意次の政治改革を中心に据えた意欲作です。
江戸時代中期、将軍・家治の時代。老中の田沼意次・意知親子が商業資本の擡頭を見通して幕府の改革を志した政治家であったという視点で、旗本の青山信二郎と河井(後に藤代)保之助を狂言回しに描く。
「樅ノ木は残った」で仙台藩の原田甲斐を忠臣と描いたように、ここでは賄賂政治の代名詞のような存在である田沼意次が実は先見性を持った政治家でありながら、松平定信のような侍のプライドにこだわる頑迷固陋な政治屋に邪魔をされてしまったという逆転の描き方です。
ただ、わりと原田甲斐が主役に落ち着いた「樅ノ木は残った」に比べると田沼親子を主役に据えてというよりも信二郎と保之助の視線で描くことが多く、意次自身の心情も描かれますが、メインではなかったりするのが「樅ノ木は残った」とはっきり異なるところです。
信二郎は柳に風を地でいくような人物で最後まで生き残りますが、保之助は花魁と心中してしまいます。そこら辺の男女の情のからみの描き方がわりとねっとりした感じでした。
昔の新潮文庫というのは表紙が花鳥画の上に1色と地味だったんですが、そこが市井の人びとを描き、英雄には目もくれなかった周五郎さんらしくていいと思ってたんですが、新しい版になると安っぽい装画がカバーになってて品が堕ちたなぁと思いました。メディアミックスの先駆者・角川なんかになると映画とかドラマの写真が使われてて、また安っぽかったり…。
あと、文字がえらくでかくなって、個人的には読みづらい…。
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