山本周五郎著。新潮文庫刊。
表題作のほか、「いさましい話」「菊千代抄」「思い違い物語」「七日七夜」「凌霄花(のうぜんかずら)」「ひとでなし」「藪落し」の八編を収録した短編集です。
「いさましい話」は江戸から国許に乗り込んだ侍が出会った老人とのふれあいと、巻き込まれた謀略の顛末に知る思いがけぬ実父を知る話。
「菊千代抄」は、男性と育てられ、自身も男と思い込んでいた女性が、女であることを知らされてたどる悲劇と、その再生を描いた話。
「思い違い物語」はコメディで、粗忽者に扮した侍が藩内の不正を突き止めて暴くまでをユーモアたっぷりに描いた話。
「七日七夜」は旗本の四男として産まれた主人公が、26年間の冷遇に耐えかねて、とうとう生家を出奔、吉原で金をふんだくられもしたけれど、最後は親切な小料理屋の親子に救われる話。
「凌霄花」は、のうぜんかずらの花に託した身分違いの男女の恋愛と結婚、その破綻と再生を描いた話。
「あんちゃん」は妹に懸想した男が、自分をけだものだと思ってぐれるも、思わぬ事実を知り、元の鞘に収まる話。
「ひとでなし」は島抜けに成功した無法者が、相棒のさらなるひとでなしっぷりを知って、それを殺そうと決意するまでを描いた話。
「藪落し」は水晶の鉱脈探しに取り憑かれた男が、ようやく水晶を見つけた時にはすでに妻も子も失った後だったという狂気じみた話。
と、見事にカラーが分かれてるのがお見事です。
「思い違い物語」がおもしろかったですな。特に主人公の泰三の台詞廻しが軽妙で、まぁ、舌の回ること回ること、呆れてしまいます。でも、こういう台詞って意外と映像化するとそれほどでもなくて、やっぱり小説ならではの味わいなんでしょう。
[0回]
PR