アルド=カルピ著。川本英明訳。創元社刊。
副題が「ホロコーストから生還した画家の記録」とあるように著者のカルピ氏は画家です。そのため、途中に58点ほどの絵やスケッチが挿入されている(あと1点は一家の写真と、カルピ氏の復帰を願う署名)のが特徴的ですが、何より貴重なのは、この記録がリアルに書かれたものだったという点でしょう。わしも「夜と霧」を始めとして、ホロコーストの生還者の記録はいろいろと読みましたが、どれも帰ってきてから書かれたもので、収容所内で書かれた記録ではないのです。もちろんナチスが許したはずはありません。
見つかれば命を落とす、そういうところで書かれたというのが貴重なのですが、それもこれもカルピ氏がイタリア人の政治犯で、画家としてほかの収容者に比べて特権的な地位を得られたという幸運があるからにほかなりません。つまり、ユダヤ人の収容者にはそんな機会さえ与えられなかったというのは他のホロコーストものに比べて区別されていいと思いました。捕まった時にすでに50代だったカルピ氏がユダヤ人だったならば、たとえ画家としての才能を見せたところで生き延びる確率はかなり低かったであろうと思われるからです。
あと、全編を貫くのが神への信仰を語る敬虔な信者としての姿であり、繰り返し繰り返し語られるのは少々くどかったです。まぁ、しょうがない。
ちなみにグーゼンはマウトハウゼン強制収容所の付属収容所でオーストリアにありました。
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