趙廷來著。伊學準監修。川村湊校閲。筒井真樹子、安岡明子、神谷丹路、川村亜子共訳。集英社刊。全10巻。
サブタイトルは「トラジの歌」です。トラジとは朝鮮語で「ききょう」のことですが、作中で金範佑(キム=ボム)が学徒兵として出陣させられ、米軍の捕虜となり、地球を一周してきて日本軍としてではなく朝鮮人として連合軍に協力したいと申し出、その訓練をハワイあたりで受けていた時に通訳となった二世の女性の名前でもあることがわかります。名字が都(ト)で、名前がラジで、続けて「トラジ」と読めるようにしたというエピソードが挿入されまして、彼女の影響を受けて、金範佑が左翼にも右翼にも距離を置き、民族主義を貫こうとしているという話が同僚の孫承旻(ソン=スンホ)に明かされます。
話としては山中に立てこもっていた廉相鎮(ヨム=サンジン)たちがいよいよ反撃に出るようになり、筏橋(ボルギョ)からわりと近い栗於(ユロ)という山間の村を解放区として支配することになります。
廉相九(ヨム=サング)に犯されて、とうとう身ごもってしまった姜東植(カン=ドンシク)の妻、外西(ウェソ)宅が自殺を図ったり、素花(ソファ)が鄭河燮(チョン=ハソプ)と再会したり、痛々しい展開が続きます。
戒厳軍司令官の沈宰模(シム=ジェモ)も廉相鎮に一杯食わされたり、奇襲したりと忙しいですが、なにより、地主よりも小作人に味方しがちな姿勢が地主たちに恨まれて、とうとう廉相鎮の部下の妻を妊娠させようと骨を折ったことで容共として訴えられ、司令官の地位も剥奪されそうな予感…
そんな沈宰模に思いを寄せる娘さんがいたり、鄭河燮がつき合っていた本屋の娘がいまだに彼のことを思っていたり、ここら辺はちょっとのほほんとした展開ですが、概ね、左と右が憎み合い、血で血を洗う話は最後まで止みそうにありません。朝鮮戦争の休戦まで描いているから当然なんですが、辛いところです。ただ、それ以上にエンタテイメントとしておもしろく、歴史大河小説の名にふさわしい小説だと思います。
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