横溝正史著。角川文庫刊。
初めて手を出した原作本です。
映画(野村芳太郎監督作。以下、映画と言ったらこれ)に比べると、かなりもどかしい印象が残りまして、まるで別物だなぁと思いました。
特にヒロイン典子と兄の慎太郎がいないと主人公の辰弥の境遇もがらりと変わりますね。尼子氏の隠し黄金も見つけた上、典子と結ばれてハッピーエンドの小説版に比べると映画のヒロインは美也子になってるので辰弥は美也子に裏切られた上、ラストは元のように飛行場に戻っているというハッピーエンドとはとても言えない展開です。
「八つ墓村」も何回も映像化されているそうですが、そのたびに登場人物がいたりいなかったりするそうで、その最多が典子兄妹なんですね。
ただ、陰惨な「八つ墓村」のなかでは天真爛漫な典子のキャラは少々浮いていると言えなくもありません。特に尼子氏による呪いというか復讐心が美也子に凄惨な連続殺人事件を引き起こさせた映画の展開では典子の存在そのものを削ったのは大英断と言ってもいいと思いました。
あと小説だと辰弥が実の父と再会するシーンもありましたが、それもどっちでもいいような気がします。
また映画ではラスト、ただ一人生き残った小竹様も火事にまかれて死んでしまったようなので文字通り東屋全滅なのは、いっそ潔いです。小説だと小竹様だけ生き残ってどうしろというのだ。
あとあと、映画ではまったくの狂言回しに徹してしまい、寅さんのイメージが終生つきまとったのがお気の毒な渥美清さん演ずる金田一さんが、小説だとそもそも美也子の仕業だと疑っていたというのをラストの謎解きで明かすのも付け足した感がなくもありません。
映画のキャスティングを思い浮かべながら楽しく読んでました。唯一、典子と慎太郎だけは顔がありませんが、それもしょうがない。
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