山本周五郎著。新潮文庫刊。
表題作のほか、「武家草鞋」「おしゃべり物語」「山女魚」「陽気な客」「妹の縁談」「大納言狐」「水たたき」「凍てのあと」を収録した短編集です。うち「陽気な客」が現代物で、ほかは時代物ですが、周五郎さん的には舞台こそ江戸時代とかだったりするけれど、登場人物の心情などは現代のものであって、あんまり時代物の作家と呼ばれたくなかったと「あとのない仮名」の解説に書いてありました。
「陽気な客」は酔っぱらいが、とある芸術家との関わりと死を一方的に語る話なんですが、こういうのを純文学と言うのだろうか?
「武家草鞋」は、自分が常に正しいと思い込んでいる潔癖症の侍が、ご隠居に諫められ、同僚に迎えに来てもらって帰る話。
「おしゃべり物語」はおしゃべりな若侍がおしゃべりで藩の問題を解決する滑稽物。
「山女魚」は病弱な兄が亡くなり、その遺言で兄嫁と結婚することになった弟と兄嫁が、実は相思相愛で結ばれるまでの話。
「妹の縁談」は「おたふく物語」の続編というか、前編というか、姉が妹を嫁がせるまでの話。
「大納言狐」は周五郎さんには意外と多い平安物で、田舎貴族が京の都に出てきたけれど失望して田舎に帰るまでの話。風刺らしいです。
「水たたき」はさんざん放蕩を尽くした料理人が晩婚で若い嫁をもらったものの、嫁に「浮気のひとつもしろ」とそそのかし、嫁と寄りを戻すまでの話。
「凍てのあと」は勤めていた店が違法な飾りをやっていたことがおかみに知られ、一人で罪をかぶった職人がそのために根深い人間不信に陥り、隣りに越してきた浪人が似たような境遇にあることを知って仲良くなり、その嫁と寄りを戻させようとするうちに自らも癒されていく話。
「つゆのひぬま」は岡場所物で、人間不信に取り憑かれた先輩女郎が、後輩の人間を信じる真心に癒される話。
といったラインナップでした。ただ、ナイトキャップで読んでいるためか、何本か途中で寝ちゃった話もありまして、切れ味鋭い短編というのはなかなか長さも難しいものですネ。
「おしゃべり物語」の周五郎さんお得意のタッチが痛快でした。しかしこのリズムは映像にすると逆に野暮ったいと思います。
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