角川書店刊。大森倖三画。富野由悠季脚本。全3巻。
「ガンダムエース」という月刊誌で、アニメとほぼ同時期に連載していた漫画だ。あれだけくそみそにけなしていたくせに何で読んだのかと言ったら、漫画版の方が最初からサコミズ王の狂気に納得いく描き方をしていたからだ。何より、エイサップはちゃんと主人公してるし、リュクスはちゃんとヒロインしている。
第6話、ハイパー化していくサコミズ王を救ったのはなぜリュクスではなかったのか、とわしはアニメの感想に書いた。ヒロインとしてだけでなく、サコミズの娘として、第4話で父殺しを企むことしかできなかったアニメのリュクスに比べ、漫画ではエレボスとジャコバ・アオンという手助けはあるものの、そもそもサコミズ王の桜花に飾られていた特攻人形がリュクスの折ったものだったというエピソードが挟まれ、リュクスの呼びかけがあったからこそ、日本を破壊しようとしてハイパー化したサコミズは、郎利の投下した水爆から東京を守るべく、「我が願い聞き届けよ」と昇華していく。
それに、漫画では、サコミズ王の登場時から、その妄執を伺わせる演出が随所に見られ、地上に出るために反乱軍を虐殺する有様も流れとして決して不自然なものではなかった。地上に出たサコミズは十五年戦争で殺されていく日本の民衆に涙するも、現実の東京では殺戮を繰り広げる。自分たち特攻兵が命をかけて守ろうとした日本がこんな姿では納得がいかん!という姿勢は、「鉄人28号 白昼の残月」でショウタロウが「僕はこんな日本が大嫌いだ」と吐露するシーンを彷彿とさせるが、サコミズの場合はその怒りがすぐに圧倒的な攻撃力に結びつくのだからより始末が悪いと言うべきか。しかし、そんなサコミズの、東京焦土を思いとどまらせたのは、エレボスとジャコバの届けた特攻人形に託されたサコミズたち、特攻兵士を憐れむ娘たちの思いであり、何より特攻兵として死に損ない、バイストンウェルで生きてきたサコミズに向けられた一人娘リュクスの無垢な笑みであったろうと思う。
さらに、アニメでは第5話でようやく主人公らしい活躍かと思いきや、第6話ではサコミズに主役をかっさらわれ、桜花とともに消えてしまったリュクスにただ悲痛に呼びかけることしかできなかった流され主人公のエイサップがちゃんと最後まで主人公していたのも良かった。確かに「リーンの翼」はサコミズの物語であると思うのだが、だからといって、エイサップとリュクスまで蔑ろにしてしまったアニメの展開は、別にエイサップとリュクスが好きなわけではないにしても許せんものがあるわけなのだった。全6話×30分と尺は決まっているのだから、エイサップを主人公として打ち出したのならやはり最後までそうすべきだと思うのだが?
そういう意味では、漫画版の「リーンの翼」はとても納得がいくできであり、こういうバイストンウェルだったら、わしも支持できるんだがな〜と思うのだった。
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