手塚治虫ほか著。双葉社刊。
タイトルのとおり、戦中・戦後から1990年代くらいまでの世相をマンガで追った短編集です。著者と作品は以下のとおり。全体は4章仕立てです。
第1章 廃墟からの復興
手塚治虫 紙の砦
水木しげる 国際ギャング団
つげ義春 大場電気鍍金工業所
第2章 高度成長の時代
はるき悦巳 力道山がやって来た
ちばてつや 風のように
勝川克志 ミゼットと電器店
大友克洋 上を向いて歩こう
第3章 「繁栄」の光と影
西岸良平 丹沢の棟梁
諸星大二郎 不安の立像
かわぐちかいじ 抱きしめたい
第4章 過去から未来へ
岡崎京子 秋の日は釣瓶落とし
谷口ジロー 犬を飼う
村上もとか あなたを忘れない
個人的には手塚先生の私的体験も混じった「紙の砦」と、水木しげるの「国際ギャング団」、つげ義春の「大場電気鍍金工業所」、叙情的な描写がさすがの、ちばてつやの「風のように」、勝川克志の「ミゼットと電器店」、諸星大二郎の「不安の立像」、既読の谷口ジローの「犬を飼う」が良かったですね。
はるき悦巳の「力道山」は、確かに敗戦後の日本社会でプロレスラーとしてデビューした
力道山は庶民のヒーローだったんだろうけど、そもそも彼が相撲で出世できなかったのは朝鮮人だったからであり、それで相撲に見切りをつけてプロレスに転向し、スターになったけど、そのせいで朝鮮人だとカミングアウトできなかった(大事なことなんででかく)という経緯を映画で見ただけに、わしがあの映画を贔屓なだけに、そんなことも知らないでヒーローとして崇めるって自分勝手なニッポン人の姿を見たようで、話としてはおもしろいんだけど、その根っこのところが嫌でした。ちなみに映画のレビューは
こちら。カメレオン俳優ソル=ギョング氏のなりきりぶりがはまった傑作です。
大友克洋は「アキラ」より「童夢」より「気分はもう戦争」のがおもしろかったんですけど、こういうカリカチュア化した庶民生活って、何か嫌みな感じに読めました。うーん、この人の絵柄だと話が合わないような…
西岸良平の「丹沢の棟梁」は、そもそもわしの大嫌いな昭和30年代は良かったねノスタルジア満載映画の原作「鎌倉ものがたり」なんで、受けつけません。あと、鎌倉いいよねは住んだことのない人間の憧れじゃろうと思えて好きじゃないです(海際に住みたいと同じ)。
かわぐちかいじの「抱きしめたい」はネタがビートルズだったので、「僕はビートルズ」というマンガを連載していたぐらいだから好きなのかと思いましたが、わしがビートルズ嫌いなんで、どっちでも良かったです。
岡崎京子の「秋の日は釣瓶落とし」は唯一、3話も載ってたんですけど、ちょっと間延びしておもしろくなかったです。トランスジェンダーの弟という設定は1986年には先駆的なものかもしれませんが。わしは、そもそも、こういう日常的なマンガ読まないんで。
村上もとかの「あなたを忘れない」はいい話だな〜と思いましたが、樺太というかつての植民地へのノスタルジア満載で、やっぱり駄目な気がします。なにげなく樺太に残った朝鮮の人たちの話も出てきましたが郷愁だけ思い出していいところじゃないと思うんですよね。
作者がばらばらだとおもしろいの半分、つまらないの半分って感じなので、わざわざ借りなくても良かったかなぁ、まぁいいかぁというレベルでした。
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