ルース=スタイルス=ガネット著。ルース=クリスマン=ガネット絵。渡辺茂男訳。子どもの本研究会編集。福音館書店刊。全3巻。
小学生のころに読んで、それ以来、大好きな児童文学です。
第1巻「エルマーのぼうけん」
勇敢な少年エルマー=エレベーターが年取った野良猫と知り合い、どうぶつ島に囚われたりゅうの子どもを助けるために知恵を働かせ、機転を利かせて、勇気を示す物語。
エルマーの勇気と冒険に憧れたものですよ。猫のアドバイスを受けて、どうぶつ島にいる、一癖も二癖もある動物たちに対策していくエルマーはとても格好良かったのです。
たとえば、
とらにチューインガムを渡す、
サイに角をぴかぴかに磨くための歯ブラシと歯磨き粉を渡す、
ライオンにブラシとリボンを渡す、
ゴリラののみ取りをするサルに虫眼鏡を渡す、
ワニに棒付きキャンデーを渡す、
と、いちいち表現がユーモラスでたまりません。
欲の皮の突っ張った、これらの動物たちが川を渡るのが面倒なために、ある日、島に落ちてきたりゅうの子ども(後の作でボリスという名前が判明)を捕まえて、渡し船代わりにこき使うという、そもそもの発端も、りゅうの子どもには気の毒ながら、また楽しいのです。
だいたい動物たちがみんなおしゃべりで、クリスマスをお祝いしてとか、「指輪物語」や「ホビット」で蜘蛛から鷲から誰もがおしゃべりして、意志の通じ合った世界を彷彿とさせまして、これもまた楽しい。
クライマックスで、どうぶつ島に侵入したことがばれてしまい、エルマーに騙されていたと知った動物たちが怒り狂って追いかけてきたところ、ワニたちがいたって気まぐれに川を泳ぎ始めるとか、愉快痛快です。
りゅうの色合いがまた、黄色と空色の縞、角と目と足の裏は目の覚めるような赤、羽根は金色と極彩色なカラーなんですけど、挿絵で見るとほどよく青と黄色で鮮やかなのもいいです。
第2巻「エルマーとりゅう」
見事、りゅうの子どもを助け出し、エルマーの住むかれき町に向かおうとするエルマーとりゅうだったが、あらしに遭い、海の浅瀬に不時着する。夜が明けると、そこは小さな島のすぐ近くだった。島に渡ったエルマーとりゅうは、ここでかつてエルマーの母が飼っていたカナリヤのフルートに再会する。ここは人間が住んでいたこともあったが、いまはカナリヤしか住んでいないカナリヤ島だという。しかも島中のカナリヤが知りたがりの病にかかっていた。カナリヤの王カン11世に会ったエルマーはその秘密を解き明かす。それは人間たちが後に島に来る時のために残していった宝箱だったのだ。
「エルマーのぼうけん」と、続編の「エルマーと16ぴきのりゅう」に挟まれてアクションは薄めの中編です。前半は嵐に襲われるエルマーとりゅうなんですが、後半はカナリヤ島に至って、エルマーは宝箱を発掘し、カナリヤたちの知りたがりの病を見事に治すのでした。もっとも子ども向けなんで謎解きはあんまりなくて、結局、人間たちが宝の箱を残していったことを初代のカナリヤ、カン1世は知っていたけれど、その中身がわからなくて11世まで悶々としていたというエピソードがユーモラス満載。ただ、箱は大きいし、けっこう深いところに埋められていたし、重くて、りゅうがやっと持ち上げたくらいなんで、カナリヤたちではやっぱりどうしようもなかった模様。
箱の中身は人間が戻ってきた時に役立つように生活品が多く、
白鑞(しろめ。鉛と錫の合金)の皿、コップ、銀の食器、鉄のフライパン、鉄の鍋、珈琲引き、塩と砂糖、斧、火口箱、野菜の種(南瓜、トウモロコシ、キャベツ、麦、きび)、金時計と鎖、純銀のハーモニカ、金貨
とわりと素朴です。まぁ、子ども向けなんで金銀財宝がざっくざくという展開にはならないのがリアル。
でも、王様から金貨とハーモニカと時計をもらい、お父さんの誕生日に間に合わせるとはエルマーも憎い奴ですな。しかもハーモニカで3曲くらい吹いてるし。いい話です。
第3巻「エルマーと16ぴきのりゅう
「エルマーのぼうけん」「エルマーとりゅう」に続く3部作のラストです。16匹もりゅうが登場して華やかで、ラストに相応しい大団円。
エルマーと別れてりゅうの子どもはとんがり山脈の向こう側、ごびごび砂漠にそびえ立つそらいろ高原の家族のもとを目指す。途中、人間に見つかったりしながら旅を続けるりゅうは、ごびごび砂漠の砂嵐が収まって、人間たちがそらいろ高原にりゅうを見つけたことを知る。しかもりゅうたちは洞窟に追い込まれて入口をふさがれているのだ。りゅうは家族と話してエルマーに助けを求めるため、かれき町に帰る。ねこからりゅうが公園に現れたことを知らされたエルマーは、事情を知ってりゅうたちを助けるための計画を練り、急ぎ、そらいろ高原に向かうのだった。
というわけで故郷に戻ったりゅうが家族の危機を知って、エルマーに助けを求める前半、エルマーとりゅうとねこが相談して、りゅうの家族を助ける後半と緩急のアクセントも見事。
特に16人もの大人が集まっているそらいろ高原で9歳の少年エルマーがどう立ち向かうかはなかなか見事な展開です。
そして、個人的にいちばん好きなのがりゅう、ボリスの家族の華やかな色合いでして、金色の羽根と足の先、角は赤いのですが、全員色が違います。
おとうさんが空色、
おかあさんが黄色(よって、この巻の裏表紙のりゅうは両親)、
女のきょうだいは6匹とも緑色だけど、黄緑から青緑まで様々、
男のきょうだいは7匹いて、みんな空色と黄色なんだけど、
細い縦縞(黄色地に空色の縞)、
ボリスと同じ細い横縞(やはり黄色地に空色の縞)、
空色の上に黄色の水玉、
黄色の上に空色の水玉、
頭と身体と足が一本黄色で、ほかの足は空色、
空色と黄色のぼちぼち、
空色と黄色のぶち、
とまぁ、是非、フルカラーで拝見したかったですよ。アメリカだとフルカラーの絵本とかあるんだろうか…
このりゅうたちがエルマーの指揮で一斉に洞窟を逃げ出すクライマックスは見るからに壮観。
心優しいりゅうたちを、どうかこれ以上傷つけないでほしい。
ラスト、砂嵐に隠されるそらいろ高原に、願わずにいられませんでした。
いつまでも読み返したい名作です。
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