監督:ケン=ローチ
出演:アンジー(キルストン=ウェアリング)、ローズ(ジュリエット=エリス)、ジェレミー(ジョー=シフリート)、カロル(レズワフ=ジュリック)、ほか
イギリス・イタリア・ドイツ・スペイン・ポーランド、2007年
たきがは大好きなイギリスの巨匠ケン=ローチ監督の見逃していた一本です。「
麦の穂を揺らす風」の翌年に撮ったそうです。
一人息子のジェイミーを両親に預けて親友のローズと暮らすシングルマザーのアンジー。東ヨーロッパからの出稼ぎの人びとを対象にした人材派遣会社をクビになったアンジーは、ローズとともに会社を立ち上げる。ジェイミーとともに暮らすため、がむしゃらに働くアンジーだったが、イランからの不法移民マフムードを知ったこと、知り合いのシャツ工場の社長から不法移民を働かせながら警告1つで済んだマフィアのことを知らされて、より儲けの大きい不法移民を斡旋するようになる。だがそれは法に触れることであり、アンジーは越えてはならない一線を越えたことに気づいていなかった…。
「
Sweet Sixteen」のようなほろ苦い映画でした。
アンジーはシングルマザーで愛する息子と一緒に暮らすことができません。人材派遣会社で一生懸命働いてもセクハラひとつでクビにされてしまう不安定さ。親友のローズも高学歴なのに正社員として雇ってもらえない不安定な立場にあります。
だからこそ、2人は会社を立ち上げ、かなり強引な手法ではありますが人材派遣業へ食い込んでいきます。
ところがそれは、弱い立場にあるアンジーやローズが、さらに弱い立場にある人びとを食い物にしていく仕事でもあったのです。
なので終盤、不渡りの小切手をつかまされたアンジーは、手元に金があるにもかかわらず、雇用している人びとへの給与を3週間も不払いにしてしまっています。
さらにロンドンにアパートを借りられずにトレーラーに住んでいる人たちを行政にちくることで自分が雇い入れたい人びとをそこに住まわせようとまで画策します。
幸せになりたい、息子と一緒に暮らしたい。
アンジーの要求は決して間違ったものではないのですが、より弱い立場にある者を犠牲にしていく姿勢には疑問点がつかざるを得ず、そこのところは「Sweet Sixteen」でヤクを売って母や姉と住む家を買おうとした主人公と重なるものがありました。
そして、そういう人への監督の厳しい姿勢も変わるものではありませんでした。
アンジーがウクライナで人材を募集するところで終わるこの映画は、それでも頑張っていくアンジーへの応援歌にも見えなかったのですが、給与を不払いにしたことを息子をぷち誘拐されるという脅迫を受けたアンジーは、もしかしたら改心したかもしれないし、あるいは自分たちを苦しめる制度とか社会への理不尽さに気づいたかというと、それもいささか怪しいし、落としどころがすっきりしませんでした。
でも、アンジーという女性をとおして語られたことは、この世界が確かにどこかが間違っていることではないかということで、それは現在の日本にあまりによく似た社会でもありました(舞台はロンドン)。
あと「不法移民」ってさんざん言っちゃってるんですけど、何が不法なのかという点がその社会の法に逆らっているという意味では確かに不法なんですが、人道的にどうなのよという点とか、もう釈然としませんでした。
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