こうの史代著。全3巻。双葉社刊。
「夕凪の街 桜の国」に続く戦時物なんだけど、同じヒロシマを扱っていても、こちらは戦時中の日常描写が続き、中巻ぐらいまではわりと淡々と進む。劇的な描写も少なく、ちょっととぼけた主人公すずと、その嫁ぎ先の北條家の人びとや近所の人たちとの出会いと日常が、こうのさん独特のタッチで温かく、時におかしく描かれる。
しかし下巻になり、舞台の呉も空襲を受けるにつれ、日常は非日常になり、すずは様々なものを失ってしまう。そして、決して避けることのできない広島への原爆投下、敗戦に至るも、すずの日常は極端に変わってしまうこともない。
「この世界の片隅にうちを見つけてくれてありがとう」と周作に語るすず(ここで上巻の人さらいが出てくるのがまた笑わせる。しかもこの化け物、すずと周作の縁結びだったりする)に、たくさんのすずとたくさんの周作がいたことを思い、そのたくさんのすずと周作はあるいは出会えなかったりしたことをも思い、じんわりとする。
そしてラスト、右手を失ったすずを、失った己の母に重ねて慕う原爆孤児と出会い、連れて帰るすずと周作、「よう広島で生きとってくれんさったね」と言うすずを迎えるように変わらぬ呉の町と山、3人を迎え入れる北條家の人びとの優しさに、ああ、こんな物語があったろう、こんなこともあったろう、と静かに幕を閉じるのだった。
「鬼イチャン冒険記」がまたたまりませんわ。南海でワニと同居してる鬼イチャン、いいキャラだな〜
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