船戸与一著。集英社刊。
インドネシアのアンボン島を舞台にした、血で血を洗うイスラム教徒とプロテスタントとの戦いを多様な視点で描いたドラマ。
インドネシアのロンボク島で海老の養殖を営む笹沢浩平は、10年以上前に助手として使っていたカシム=ファウジを追って、政情の不安定なアンボン島に向かう。イスラム教徒とプロテスタントが血で血を洗う抗争を続けるアンボン島で、カシムはアンボン島の英雄の子孫イドリス=パティムラと名乗って、イスラム教徒を扇動しているという疑いがかけられていたのだ。アンボン島に住むプロテスタントのサイラス=ディサフ、イスラム教徒のシャキブ=サスチオン、カトリックで華人のロバート=コファンらの視点も交えて、アンボン島での抗争の行方を描く。
視点が4つもあるもんで、舞台がちょこちょこ入れ替わります。ある時はロンボク島の笹沢浩平だったり、アンボン島のサイラス=ディサフ、シャキブ=サスチオン、ロバート=コファンだったり。最初は何の関係もないと思われたこれらの人物が、英雄の子孫イドリス=パティムラを名乗るカシム=ファウジの登場でダイナミックに結びつきあい、殺し合いにまで発展する様は船戸節健在であります。ただ、この話も「
河畔に標なく」と同様、最後は登場人物のほとんどが死んでしまう話なので、複雑なインドネシアの状況はわかるのですが、読後感はあんまりよくありません。
その中でも、カシム=ファウジのキャラクターは、その視点で語られることはありませんが、「蝦夷地別件」の若きアイヌを彷彿とさせるどす黒さでした。ここんとこ、絶望的なラストが多く、たまには「山猫の夏」とか「蟹喰猿フーガ」みたいな明るい話も読んでみたいな〜
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