監督:久松静児
原作:三田庸子
出演:杉山保安課長(原節子)、竹原所長(田中絹代)、南せん子(久我美子)、斎藤看守(菅井きん)、平井かず子(岡田茉莉子)、原妙子(香川京子)、千葉やす子(木暮実千代)、能見けい子(淡路恵子)、佐川かよ(杉葉子)、沼田ユキ(中北千枝子)、高橋てん子(千石規子)、ほか
日本、1956年
原節子さん以外に田中絹代、木暮実千代、久我美子、香川京子、中北千枝子、杉葉子、菅井きん、岡田茉莉子、淡路恵子、千石規子と日本映画界の黄金期を支えた女優さんたちがかなり出演している社会派ドラマです。
うちの母親が先に見たら、退屈で退屈で仕方なかったそうなんですが、社会派ドラマはわりと鍛えられている(ケン=ローチ監督とか、マフマルバフ監督とか…)んで、わしはけっこうおもしろく鑑賞しました。特に若かりし菅井きんさんが人情派の看守役(原さん直属の部下っぽい)で好演。あと、所長役の田中絹代さんはさすがの重鎮、立ち姿も凛々しく、出るシーンを引き締めてた感じでしたし、女囚役の皆さんも体当たりの演技が良かったです。
和歌山県の女囚のみを収監する刑務所を舞台に、保安課長の杉山を中心に、その日常の一コマを描く。
「
白痴」では何不自由なく育った我が儘いっぱいのお嬢様役を熱演した久我美子さんが、ちょっとしたことがきっかけで幸せをつかみ損ね、転げ落ちてしまった娘さん役を熱演してました。はすっぱな感じで、当初は原さん演ずる保安課長に反抗してましたが、ふとしたことで見せる涙とか、独房の壁に描いた心中し損ねた赤ん坊の似顔絵とか、後半、ふとしたことで保育園を任せられ、思わず子どもたちを太陽の下に連れ出しちゃう優しさとか、可愛さがうかがえるのが良かったですな。それだけに保安課長が久我さん演ずるせん子と仲良かった能見(彼女を演ずるのが淡路さんだったと気づかなくてまたびっくり)に刺されたことが知られ、女囚たちに「おまえのせいだ」と責められる孤独さ、なまじ美人なだけに誤解されやすい女性の切ない心理とかうかがえて、せん子が思わず保安課長の輸血に自分をと訴えるシーンでは、急転直下なご都合主義もありましょうが、せん子への誤解を一気に解くにはこれ以上ないシチュエーションでもあり、その前に「天使のよう」と形容される保安課長に唯一逆らっていた人物でもあって、保安課長もせん子が恩師の娘だったので特別気にかけていたのに、せん子がいつまでも素直にならないので「あなたの顔はもう見たくない」とまで言われていたのを和解するだけの力なんかもあって、群像劇ではありますが、まぁ、実質的な主役でした。長い。
杉葉子さんは元模範囚で所長の家で女中をやってて、今度、結婚するというんで原さんに花嫁衣装を借りに来るという役だったんですが、まんま「
青い山脈」の新子ちゃんだったもんで、すぐにわかったのでした。
香川京子さんは「
赤ひげ」の狂女役から転じてクライマックスで花嫁御寮となって刑務所を出ていく娘さん役です。振り袖に身を包み、女囚たちに見送られるシーンは、わりと淡々と描かれたこの映画のなかではまさにクライマックス。
その一方でラスト、せっかく社会復帰をしようと保険会社に勤め出していたのに、前科者だったことがばれて首になってしまった沼田ユキ(中北千枝子さん。「
素晴らしき日曜日」のカップル)の姿を通じて問題提起もあり、と力作です。
公開時のキャッチコピーは「11大女優共演」だったらしいんですが、田中絹代、原節子、久我美子、香川京子、岡田茉莉子、木暮実千代、浪花千栄子、安西郷子、淡路恵子、杉葉子、中北千枝子が該当するらしいんですけど、浪花千栄子さんと安西郷子さんだけ知らんなぁ…
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