山本周五郎著。新潮文庫刊。
表題作のほか、「落武者日記」「若殿女難記」「古い樫木」「枕を三度たたいた」「源蔵ヶ原」「溜息の部屋」「正体」と全8編の中編、短編を収録してます。
「落武者日記」と「若殿女難記」がおもしろかったです。
「落武者日記」は、関ヶ原の合戦で敗れた石田三成に仕える武将が逃亡の最中に徳川家康に捕まって、三成の居場所を吐かされそうになるけれど、はったりで逃れたという話で、老獪な家康像なんだけど、ちょっとテレビでさんざん描かれてる狸親父との違うのがけっこう新鮮でした。
「若殿女難記」は、若殿をそっくりの無法者と入れ替え、お家乗っ取りを企む家臣の裏をかいた若殿の話で、痛快な展開でした。
「古い樫木」は、老いた福島正則の話で、密通の罪を咎めた男女と、亡き家康と「七代先まで安泰」の約束があるのに領地取りつぶしに遭う正則の姿を、今にも枯れそうな樫木に託して書いた話で、取りつぶしの上意を知らされた正則を諫める妻女の台詞がなかなか良かったです。
標題の「花も刀も」は、平手深喜(御酒とも)の苦い青春記だったんですが、平手の独善的なキャラクターがあんまり共感できず。
「枕を三度たたいた」はちょっとサスペンスで、退陣をささやかれる家老の命で大金3000両を運ぶ仕事を言いつけられた主人公が、自分は汚名を着てまで物事を穏便に運ぼうとする苦心ぷりが「武士は辛いよ」とでも言いたい感じで、ここまで五作ともそんな話でした。
「源蔵ヶ原」は1人の女性に思いを寄せた6人の男たちの密室劇で、サスペンスな展開。当の女性が身投げをし、その真相を追ってく話。
「溜息の部屋」は珍しく現代物で、さびれた映画館(といっても弁士とかいるので無声映画らしい)に集まった男たちのなかに若い女性歌手が混じったことで男たちは生気を取り戻すも、彼女が喀血して離れてしまい、また元の鞘に戻ったというわびしい話。
「正体」は、これまた現代物。亡くなった友人の画家のために神戸に行った主人公が、画家の残した妻の絵を見せられ、画家が描こうとしたのは妻の「正体」だったけど、それは彼が失敗だと言った絵の中にあり、その正体を自分は知っているという、不倫落ち。
多彩な読後感を堪能できる一冊です。
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