監督:片渕須直
原作:こうの史代
出演:北條すず(のん)、北條周作(細谷佳正)、水原哲(小野大輔)、黒村径子(尾身美詞)、黒村晴美(稲葉菜月)、北條サン(新谷真弓)、北條円太郎(牛山茂)、浦野すみ(潘めぐみ)、浦野要一(大森夏向)、浦野十郎(小山剛志)、浦野キセノ(津田真澄)、白木リン(岩井七世)、知多(瀬田ひろ美)、刈谷(たちばなことね)、堂本(世弥きくよ)、すずの祖母(京田尚子)、すずの叔母(目黒未奈)、すずの従妹(池田優音)、小林夫妻(佐々木望、塩田朋子)、ほか
日本、2016年
やっと見たアニメ版です。原作ファンのわしとしてはまるで別物で、むしろ駄作だと言います。監督に映画を通じて訴えたいことがあるのなら原作付きではなくオリジナルとして発表すべきです。
以下の点がまずいと思いました。
・水原哲とすずの尋常小学校時代のエピソードを半端に描く。
教室で水原になけなしの鉛筆を奪われ、些細なトラブルに巻き込まれたすずは「水原を見たら全速力で逃げろという女子の掟を忘れておったわい」とぼやきます。しかし、この描写が好きな女の子にちょっかいを出さずにいられない男子であるのは明々白々、だからこそ、後の水原との再会が生きてくるし、逆にすずも水原を忘れ得なかったし、水兵になって大人っぽくなった水原との再会が周作に勘ぐられて、逆にすずに「うちは今 あの人にハラが立って仕方がない……!」と言わせるわけです。その伏線もなしに「波のうさぎ」の後半(すずが水原に代わって絵を描く)だけやられても、それは原作におんぶに抱っこの描き方で、おかしいだろうと思うわけです。水原が兄を失い、そのために両親が飲んだくれているから家に帰りたくないという台詞はありますが、それだけですずが水原の代わりに絵を描く理由としては薄いでしょ。水原がすずを意識していて、すずも憎からず思っているから絵を描き、だから水原もすずの代わりにコクバを集めて、さらに椿の花も乗せておいたというには弱いです。なので後の水原からみのエピソードも原作におんぶしていて、映画見る人なら原作ぐらい読んできたよねという製作者の甘えが見える。それはいただけないと思いました。水原の「浦野の鬼いちゃんを見たら全速力で逃げろという男子の掟があるけえの」という台詞もすずの台詞と対になっているのに水原だけではつまらないです。
・リンの描き方が半端。
そもそもリンがいないと右手を失ったすずが「広島に帰る」と言い出すきっかけにならないんで登場させたんでしょうけど、それだけのために「大潮の頃」を描くのは時間の無駄でしょう。そのくせ、大人になってからのリンは遊郭で会った親切なお姉さんとしてしか登場しません。なので、すずが「広島に帰る」と周作に宣言するのはすごく唐突な感じです。
また小道具ですが、すずがリンからもらったテルちゃんの口紅を持っているのも唐突さがぬぐえません。モガとしてならした径子ならばいざ知らず、その径子に「……冴えん!」と言われるすずが口紅なんか買うとは思えません。誰かにもらった? それならば原作のエピソードを生かしましょうよ。そうしないで原作にない台詞廻しとか入れたのは何でですか? 言いたいことがあるなら監督、原作の知名度と完成度に甘えないでオリジナルの脚本にしたら?
・晴美のことを刈谷さんに言う台詞が中途半端
「晴美さんとは一緒に笑うた記憶しかない じゃけえ笑うたびに思い出します」って何で削ったかな。
あと晴美のことをすずが「晴美ちゃん」と時々言うのはおかしいです。原作だとずっと「晴美さん」やで。
・径子の台詞が中途半端
広島に99%帰る気だったすずの気持ちを変えた径子の台詞、わしはこれで径子がいちばん好きなんですけど、何で「じゃけえ いつでも往にゃええ思うとった ここがイヤになったらね」に続く「ただ言うとく わたしはあんたの世話や家事くらいどうもない むしろ気がまぎれてええ 失くしたもんをあれこれ考えんですむ……」を削ったかな。径子の強さ、晴美も夫も失い、息子とも別れて、それでも気丈に生きる強さを表した台詞だと思ってるんですよ。それだけに敗戦が決まり、晴美の死を嘆くシーンが胸を打つわけで、径子が好きなわしとしては納得がいきません。
あと防空壕を作った時に取り壊した黒村家から持ってきた柱、久夫と晴美の身長が刻まれてたやつ、あれをわざわざ入り口に使った周作に径子が礼を言うシーンもなんでないのだ。
・すずが「戦いだ」と言ったのはやっぱり唐突
そういうキャラじゃないよね。
あと、嫁入りしたすずが径子のことが誰だかわからないという描写、確かにすずはしょっちゅううっかり者の描写をされてますけど、人違いとかないよ? まぁ、嫁ぎ先の名字を覚えていないというポカはやらかしたけど、それだけじゃなかったっけ?
戦時中の生活がリアルに描かれていて良かったという感想をネットでちらちら見ましたが、それならこの原作を使う必要はないでしょう。
やけに長いと思っていたら監督インタビューがついていたそうですが、映画で語れないことを語られてもと思ったので見る気もおきませんでした。
この監督の名前を見たら、とりあえず避けるぐらいには駄作認定です。
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