永山則夫著。河出書房新社刊。
「
捨て子ごっこ」の続編で、中学を卒業して集団上京する表題作と、その前日譚の「残雪」を収めてあります。
「残雪」は家出したりして、すっかり学校に行かなくなっていくものの、担任の先生の温情とかもあって卒業させてもらえるまで。
「なぜか、海」は上京して渋谷にある西村フルーツパーラーに就職したNが最初のうちこそ順調に勤めていたものの、上司らに青森時代(つまり「残雪」の頃)に盗みをしたことがばれていたために働く意欲を失い、最後には三兄の下宿に転がり込むまでを書いてます。
今で言うネグレクト、育児放棄を受けて育ったNは、わしらが見ると些細なことでつまづき、やる気を失ってしまいます。これは小さい頃からNが自分を肯定してもらえなかったことに影響があると思い、本来ならばその役目をするはずだった両親が不在というのはすでになされた分析かもしれません。Nを無条件で愛した長姉セツが精神に異常を来し、長く精神病院に入院しているという状況はNの成長に大いにマイナスであったろうと。それでも西村フルーツで仕事を要領よくこなしていくNの姿には青森時代の卑屈さがなかっただけに、上司の無理解な台詞とかがやがてNが引き起こす事件につながっていくのが見えてしまって何ということかと思いました。誰かが手を差し伸べれば、どこかで何かが変わっていたかもしれない。N、永山則夫氏はあんな犯罪を犯さないで済んだかもしれない。そう思えてなりません。
そんなNが「なぜか、海」を見に行って安らぐのは、セツ姉さんと過ごした網走時代の記憶のためだったのでしょうか。
そういや「
死刑囚042」でも主人公のカウンセラーが「隣の人にちょっとだけ気を配ってほしい」と訴えた最後の方のシーンが思い出されました。
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