永山則夫著。河出書房新社刊。
「なぜか、海」の続編で表題作のほか、「陸の眼」を収録。
「陸の眼」は渋谷の西村フルーツパーラーを辞めたNが海が見たくて横浜に向かい、香港行きの船に密航してまた日本に帰され、婿養子に行った長兄に引き取られ、バイクの会社に就職するもうまくいかず、兄に給料を猫ばばされたこともあり、再び家出するまで。
「異水」は大阪まで流れていったNが道ばたで知り合ったおっさんの紹介で米問屋に就職するも、社長の求める戸籍謄本を母から送ってもらい、そこに本籍地が「網走番外地」とあったことでちょうど流行っていた映画「網走番外地」=網走刑務所のことだと思い込み、人間関係をこじらせてしまい、米問屋を辞めて、また東京に帰るまで。
ここら辺になると読んでてしんどいという感じではなく、誰にも相談できずにこじらせていくNの態度がもどかしいと思いました。「陸の眼」でやりたかったことと違う仕事を与えられて就職早々にやる気を失うところとか、長兄に給料の半分を猫ばばされた(と思った)こととか、独りよがりな判断で悪い方へ悪い方へ転がっていってしまう。誰かに相談できればまた違う結末もあったろうにそう考えることができない。
けれども悪いのはそういう考え方しかできないNではなく、彼を育てていない親や兄姉なんですよね。唯一、彼を育てたと言えるのは長姉のセツなんですけど、それも4歳ぐらいまでのことでしかない。セツ姉さんはNを無条件で愛したけれど、それはNにとって逃げ込むものでしかならなくなった。Nに必要だったのは「普通の」人間関係、友だち。
「異水」の最後で東京に戻るN、いつか見た映画のなかの南の海に憧れながら東京に戻るのは、そこに兄がいるから。兄に何度も裏切られながら、土壇場では頼るしかない。その歪んだ関係がやがて彼に重大な犯罪を犯させてしまう。その流れがわかっているだけに、辛いなと思います。
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