山本周五郎著。新潮文庫刊。
戦前の著作を集めた短編集です。
表題作のほかに「だだら団兵衛」「槍術年代記」「本所霙河岸」「金作行状記」「憎いあん畜生」「城を守る者」「五月雨日記」「宵闇の義賊」「可笑記」「花咲かぬリラ」の11編を収録。うち、「可笑記」が半分エッセイっぽく、「花咲かぬリラ」が現代物で、それ以外は時代物です。
表題作の「艶書」は前に読んだ話に同じようなテーマのがありましたが、同じテーマを何度も練り直すというのが周五郎さんの特徴のひとつで、その最初の一編のようです。
「宵闇の義賊」はご存じ、鼠小僧次郎吉が主題ですが、義賊なんてものはないとする周五郎さん的には偽善者として描かれるので世間一般の評価とは雲泥の違いです。同じ鼠小僧次郎吉を芥川龍之介も書いたそうなので比較のために読んでみたいところですが青空文庫に入っていたかな…
「憎いあん畜生」は忍ぶ女で、これまた周五郎さんのお得意。
おもしろかったのは「可笑記」と「花咲かぬリラ」でした。「可笑記」は自分の情けなさを綴っちゃった文なんですが、作者31歳とは恐れ入ります。「花咲かぬリラ」は、たぶんこれだけだろうという帰還兵を主役にしたものですが、敗戦後ながら北海道で部下とともに酪農を目指す主人公がすがすがしく、将来を誓い合った女性を尼僧院から取り戻す展開も青春!って感じが珍しかったです。
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