山本周五郎著。新潮社文庫。全2巻。
いわゆる「伊達騒動」の悪役とされる原田甲斐を、実は伊達藩62万石を守った忠臣として描いた歴史物。
1970年の大河ドラマにもなってまして、主役は平幹二朗さん。ヒロインの卯之は吉永小百合に加え、甲斐の同志である伊達安芸(作中では「涌谷」と表記されること多し)に森雅之さん、甲斐の母に田中絹代さん、里見十左衛門に志村喬さん、小説には登場しない甲斐の父で宮口精二さん、敵役である酒井雅楽頭に北大路欣也さん、伊達兵部(作中では「一ノ関」と称されること多し)に佐藤慶さんとわし好みのキャストが揃って、見てみたい!大河ドラマなんですが、総集編しかまともに残ってない模様です… (´・ω・`)
山本周五郎さんの代表作と言ってもいい作で、酒井雅楽頭と伊達兵部の伊達藩62万石を半分にするという密約が交わされたことを知った原田甲斐、伊達安芸、茂庭周防の3人が様々な罠に耐え、忍び、特に甲斐は伊達兵部の懐に入ることになったため、表面上は伊達安芸や茂庭周防を裏切ったように思われ、批判され、甲斐と親しくしていた里見十左衛門や伊東七十郎といった若い侍たちも離れていき、それでも甲斐は仙台藩を守るために、最後は一命を賭して、守り抜いたというなかなか重厚なドラマであります。
なにしろ、従来は悪役とされた原田甲斐を、実は忠臣でしたに引っ繰り返した発想も見事ならば、その生活や暮らしぶりを丁寧に描き、原田甲斐の人物を描き出して、真の忠臣に仕立てた筋もいいです。
また間に挟まれる「断章」という伊達兵部と家臣のこそこそした話ぶりが、会話だけで進むだけに、敵の不気味さを醸し出し、それでいて、真の敵である酒井雅楽頭の本当の思惑(=仙台藩の改易と、同様に大きな外様大名である薩摩藩、加賀藩の改易も企んでいる)に気づかぬ道化っぷりがまた、幕府という存在の大きさ、不気味さを演出して、こちらは完全に伊達兵部のみの視点であるだけに、他の章がほぼ甲斐たちの戦いに費やされているだけに、なかなか良いアクセントにもなっているのでした。
山本周五郎さんの小説を読んだことのない人にも是非、読んでもらいたい、日本の小説史上に残る傑作です。
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