上橋菜穂子著。偕成社。
上橋さんのデビュー2作目。いままで読んだのとがらっと雰囲気の違う和製ファンタジー。でも、根っこのところは上橋さんです。
読んでてカミと人の対立、というカテゴリーで「もののけ姫」を思い出しました。ただ、たきがは、これは大嫌いです。主役2人が大根だったのもまだいい。モロが老獪な山犬でなくて美輪明宏にしか聞こえないというのも目をつぶろう(私的には来宮良子さんとかにやってほしかったが)。エボシ御前役に田中裕子さんでは弱い(声が、こういう強い女性をやる方ではない。「ナウシカ」のクシャナと同じ方か、田島令子さん辺りでなぜ駄目だったのか)のも我慢しよう。ラスト、死によって文字どおり死神と化した神(名前忘れてます)が、生き返ることによって安直な救いをもたらしたというその1点が許し難い。主人公二人の救済はぶっちゃけどっちでもいい。はっきり言って、サンは「もののけ姫」というタイトルを背負うようなヒロインとしてはあまりに魅力がなかった。アシタカももののけにも人間にもいい顔をしようとするキャラクターがたきがはの好みではなかった。だからこの二人が生きてようが死んでようがどっちでもいい。しかし、明らかにらい病としか思えないような描写のタタラ場の人たちを救済した安易さが嫌いだ。あんなものをヒューマニズムなんて呼ばない。虫酸が走った。「生きろ」というキャッチフレーズに自ら背くような安易な救済、あの瞬間、たきがはは見ていたテレビに物をぶつけてやりたい怒りにかられたのだった。ぶつけなかったけど。自分のじゃなかったから。
閑話休題。
死を描くアニメというのは多いと思う。死は断絶だと思う。生者と死者のあいだには決して乗り越えられない壁がある。だから死は視聴者の心を打つ。「命がけ」という言葉がそうした創作や外国の中でしか見られなくなった日本で、命をかけて自分を、信念を、理想を貫こうとする登場人物は美しいし格好いい。そうじゃないことも多いが。
律令国家としてまとまりつつある古代日本。国という強権に組み込まれた村は、カミとの古から続く掟を破り、禁断の沼に踏み込もうとする。そこを守ろうとするカミの息子であり、代弁者でもあるタヤタ、タヤタを愛するが村とのつながりに引き裂かれそうになるキシメ、タヤタと同じカミの子でありながら数奇な運命のために「オニ」と呼ばれてきたナガタチ。
この島国がまだ国として統一されていなかった大昔、荒ぶる野生にカミを見た我々の祖先たちは、もしかしたらこんな葛藤を乗り越え、カミとの戦いの果てに国家に呑み込まれ、国家を築き上げていったのかもしれない。
「……人にとっては、考える気にもならんほど長い時ののちに、その水におのが身をけずられて、崖はくずれさる。」(本文より)
山崩れを恐れ、台風に破壊される現代の文明に、とうの昔に自然とのつながりを失った人の姿が見える。
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