米倉斉加年著。偕成社刊。
米倉斉加年さんが亡くなったと聞いて、大昔読んだなぁと思って、図書館で借りてきました。
わしは、こういう、繊細なタッチの絵は子どもの頃は好かんかったので、どんな話だったのか覚えてませんでしたが、読んでいたら、ああ〜と記憶が蘇ってきました。
奴津(なのつ。現在の博多)に阿羅志(あらし)という漁師がいた。18の時に物言わぬ乙女を連れ帰り、2人の間には多毛留という男の子が生まれた。乙女、多毛留の母は何もしゃべらず、おしだと思われていた。多毛留が15の時に2人の親子とおぼしき男が漂着した。すると母が多毛留の知らぬ言葉でしゃべり出し、2人を看病した。2人が母の家族であることを多毛留は理解した。しかし阿羅志は2人を「百済人!」と言ってもりを振り上げたので、多毛留は父を殺してしまう。異国の男2人は母と帰ろうとするが、母は多毛留とともに奴津に残ることを選ぶのだった。
「百済人」という言葉や、しゃべり出した母の挿絵にハングルが描かれているところ、後書きを見ると日本にとって近くて遠い朝鮮半島とのやりとりなのだとわかります。米倉さんは「自分の創作だ」と断っておられますが、似たようなシチュエーションはいくらでもあったろうと思います。それぐらい近い国です。けれど日本が植民地化し、大勢の人を駆り立て、殺し、その謝罪を行わないことによって、どこよりも遠い国でもあります。
悲しくて強い絵本だと思いました。
[0回]
PR