手塚治虫著。少年チャンピオンコミックス刊。全7巻。
天才役者にして泥棒の七色いんこと、彼を追う羽目になった鳥アレルギーの敏腕刑事・千里万里子とのドタバタを、実際の演劇に乗せて送るピカレスク・ロマン。
素顔を見せず、本音を明かさず、金のためなら、どんな役でも引き受ける七色いんこのキャラクターが痛快です。そういう設定はちょっとブラック・ジャックを彷彿とさせますが、コメディ調が強いのと手塚先生の様々な演劇への憧れとか好きが全面的に描かれていて、問答無用にいんこが格好いいです。
対する千里万里子刑事は射撃の腕前もピカイチ、格闘にも優れる敏腕刑事でしたが、ただひとつ、鳥を見たり、においを嗅いだり、鳴き声を聞いただけでも蕁麻疹を起こしてしまい、幼女の姿になるという弱点があり、そのためにいんこを追い詰め損ねたり、助けられたりとでこぼこなコンビっぷりも愉快です。
途中から準レギュラーとして犬のくせに俳優の素質を持つ玉サブローが登場、最初のうちは煙たがっていたいんこでしたが、次第に飼い主としての自覚を示すようになっていきます。これが、犬ならではの失敗とか、犬なのに名優という性格、しかも酔いどれときて、アクセントを加えてくれます。
第1巻〜第7巻の第2話まで、ずっと実在の舞台(西洋の劇だったり歌舞伎だったり)をタイトルにして、七色いんこと千里刑事のどたばたが続いていた本作でしたが、第3話・終幕で、いんこの真の目的とその生い立ちを語り、この流れが思わずお見事!と手を打つあっぱれさ。
こりゃあ、久々の傑作でした。
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