マイク=レズニック著。内田昌之訳。早川文庫刊。
絶滅に瀕したアフリカの種族キクユ族のために造られた小惑星のユートピア、キリンヤガ。その設立と維持に努めた祈祷師コリバを描いた連作シリーズ。
で、表紙にヒューゴー賞・ローカス賞受賞と書いてありましたが正直、おもしろくなかったです。
作者はアメリカ人なのです。そのアメリカ人がアフリカ(主にケニアに在住)の原住民がヨーロッパ風の暮らしに嫌気がさして伝統的な生活に戻るべくユートピアを築こうとするという話というのは、日本でもよくありますが、田舎の暮らしを理想化する都会人まんまです。
なので、この世界では男しか祈祷師になれないし、女はあくまでも男に仕えて、畑仕事をやり、子どもを生み育て、家事もやりという伝統的な社会ですが、それは男、特にただ一人の知恵者である祈祷師にとってのユートピアでしかないのです。
だから、第2話「空にふれた少女」で聡明すぎた少女カマリは死を選ぶしかできず、コリバの弟子となった勇敢な少年ンデミはコンピュータに触れることで文明を知り、キクユ族の暮らし以外のものがあることを知ってしまうことで最終的にはユートピアを離れざるを得ないわけです。
つまり、この世界では人は考えることはしますが、その考えは決して祈祷師より優れているとは認められず、いまでもアフリカや中東などで行われている女性への割礼(性器の切除)は文明的には悪影響の方が強いと言われているにもかかわらず、割礼を行っていない女性は成人とは認められないわけです。
どうなのよ、それ。
また祈祷師がンガイという神に祈って雨を降らせるという行為も、実際には小惑星を運営する保全局に依頼していますし、コリバ自身はエール大学ともう1つ大学を卒業してます。つまり、先進文明の恩恵は多分に被ったけど、伝統的なキクユ族の暮らしに戻りたいという人間なんだよね。だからキリンヤガに暮らすキクユ族に対して嘘八百(と本人は思ってない)の迷信とかで騙すというか脅すというか。どっちもやるんですが。
最終的にコリバは祈祷師ではいられなくなって(医療面ではどうしても遅れてるわけなので)自らキリンヤガを離れますが、そんなものは最初からなかったのだと思います。
それでも作者は、大型の野生動物が絶滅した(ライオンやゾウはいませんし、そもそも本物のキリンヤガ=ケニア山は開発が進みまくって山頂付近までコンクリートで覆われてたりする)世界で、クローニングされたゾウとともにコリバを文明世界から離れさせます。
そういう結末しかなかったんだろうな。ただ田舎の生活を理想化した感じの話には反吐が出る思いでしたよ。
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