船戸与一著。毎日新聞社刊。
標題の「金門島流離譚」と「瑞芳霧雨情話」の中編2作を収めた本です。どちらも舞台は台湾ですが、金門島は厦門に近い孤島、瑞芳鎮は台北から離れた田舎となってまして、世界の辺境を舞台に小説を書かれてきた船戸さんらしく、近現代史への切り込み方が鋭いです。
話の展開は晩年の作らしく、どちらもすっきりとしない終わり方なのですが、なにしろ読み慣れた船戸小説なもんで、するすると読めました。
これは船戸さんの小説は主役(基本的に日本人。訳ありで日本を出ていることが多い)、そのパートナー、協力者、敵対者、害する者、未確認といった配置がわかりやすいというか、独特のパターンを覚えちゃったからではないかと思うのですが、わしも、あんまりこの手のハードボイルドというか冒険物は読まないので(ドキュメンタリー除く)、比較したことがないからよくわかりません。
「金門島流離譚」
厦門の対岸に浮かぶ金門島。そこは一応、台湾領となっているが政治的な事情などで一種の無法地帯に近い。金門島でコピー品を商う日本人、藤堂義春。心の底に離人症を抱え、妻子を日本に置いて10年、藤堂の借りるホテルの隣室に、不可思議なカップルが現れたことで、藤堂は抗うことのできない運命の歯車に巻き込まれていく。
「瑞芳霧雨情話」
同じ台湾大学の大学生、梅宮俊夫と汪成美は婚約者同士、卒業論文に日本占領時代の金鉱のことを調べていて、九份というひなびた町にやってきた。そこに住む呉興福という老人と知り合い、取材をするが、呉は近くの町の悪徳不動産業者から土地を売るよう迫られており、二人はその騒動に巻き込まれていく。
どっちも「巻き込まれ」系ですが、「金門島」の方は主人公が訳ありで、だから日本の家族のもとに帰っていない、でも、事件に巻き込まれることで過去に犯した罪に追い着かれてしまうという話になりますが、「瑞芳」の方は主人公は無垢な大学生で、「
緑の底の底」と似た展開ですが、最後は凄惨な復讐譚になるので、「緑」のようなすかっとした読後感はありません。
Wikiで調べてみたんですが「ゴルゴ」の原作を除くと未読の分もあと3冊となってしまいまして、寂しいかぎりです。
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