ヤスミナ=カドラ著。香川由利子訳。早川書房刊。
昨年はあんまり本を読まなかったので反省し、買い物に出かけたついでの移動図書館で本を借りました。たきがは、大学の卒論でアフガニスタン史をやったので、アフガニスタンには興味があるのですが、行動にまで移らないのがにんともかんともですな。
作者はアルジェリアの男性で、ヤスミナというのは女性名だそうです。イスラム原理主義に批判的な小説を書いていたので、アルジェリアにいられなくなったフランスに亡命したそうな。でも、イスラム原理主義に批判的というのは欧米では受けが良さそうですな。いや、どっちが悪いとも申しませんが。
カブールで臨時の看守をやるアティクとムサラト夫婦、一見、それとは無関係そうなモフセンとズナイラ夫婦について描く。
上で「イスラム原理主義に批判的」と書きましたが、アフガニスタンではその代表的な存在がタリバンですね。
でも、たきがは、タリバンって、例の911事件以降、すっかり世界的な悪役になっているんだけど、そもそもの出発点って、ソ連軍が撤退後のアフガンで、各ムジャヒディン・グループが勢力争いを始めたわけですよ。で、主にパキスタンに亡命していたアフガン難民の神学生の中から、現状に批判的な人たちが立ち上げたのがタリバンだって認識があるんですよね。イスラム原理主義に走って、多少なりとも解放の進んだ女性たちを抑圧し、悪いイメージしかないんだけど、でも、原点はそうではなかったはずで。ソ連軍がやっと撤退したというのに、もともとが多民族のアフガニスタンという国で権力争いを始めた既存のグループに我慢がならず、まぁ、それを言ったら、何でも最初は純粋なものだったのかもしれませんが、タリバンもそういう純粋さを持っていたはずではなかったのかと。
だから、アフガニスタンという国を外からしか見たことがなく、ソ連との代理戦争さえさせていた西欧諸国が、単純にタリバンを批判するのはどうかと思ったりするのでした。
だから、小説の中で描かれているのはタリバン支配下のカブールで、地獄のような生活なのですが、西欧風の押しつけ的な地獄にも見えたのです。
あと、いくつかの章仕立てになってるんだけど、その1つの章の中で視線がアティクになったり、モフセンになったり、ついさっきまで同じ節の中でモフセンの視線だったのに、いきなりズナイラの視線になっちゃうのがすごく読みにくかったです。
無関係に見えたアティクとズナイラが、ズナイラが死刑を宣告されたことでいきなり関係を持ち始めてから、なんか先が予測できて、予想どおりの展開になりました。でも、いくら女性がチャドリを身につけてるからって、女性の民兵までいるのに、中を確認しないとか、あり得ないよな〜とか。タリバンが馬鹿だって言いたいのかとか。
別にいまさら、タリバンの弁護をするつもりはありませんが、この著者がアフガニスタンに行ったことがないのは紛れもない事実ではないかと思えるぐらい、なんか、西洋人の好む、イスラム=悪いという構図が見えるようでした。
あおり文句に「世界的に評価が急上昇」とあるのだけど、その世界というのは西欧世界のみで、そういう偏った世界観というのは危険だと思った。
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