石牟礼道子 ぶん。丸木俊・位里 え。小峰書店。
「海と空のあいだに」を見に行った時に気になってた絵本だったんですが、えいやっと買ってしまいました。蔵書はできるだけ増やすまいとしてるんですけど、ほかならぬ石牟礼さんだしなぁ。同じ丸木俊さん・伊里さんの「ひろしまのピカ」もほしいんですが、これはすごく有名なんで手元に置いておかなくてもいいかな〜と思ったりもします。広島関連は集め出すときりがないということもありますし。
「海と空のあいだに」で、ラスト、音楽を担当された園田容子さんという方が、とてもきれいな声で「しゅうりりえんえん」と歌い出された時には、その前奏で「これに歌詞がついていたらいいのになぁ」と思っていたたきがはにはとても嬉しく、とても苦しかった「海と空のあいだに」を演じられた、お二人の女優さんの苦しみが、歌声で浄化されていくような気持ちさえしました。その元が、この絵本の中にありました。
「しゅうりりえんえん」というのは、石牟礼さんの造語なのですが、このお話の狂言廻しであるしゅり神山のお使い、狐のおぎんが辛い世界から現れてくるための呪文、石牟礼さんの祈りの果てに出てこられた言葉ではないか、ということを述べておられました。
世に「言霊使い」を自称する人は多いと思うのですが、こういう独特の言葉、それでいて、石牟礼さんらしい言葉を紡ぎ出せる方はやはりなかなかいないし、「言霊使い」というのはやはり自称するものではなく、他称するものではないのかな、と思います。真似しようったって真似できない言葉に対するセンス、水俣病が石牟礼道子さんという一介の主婦であり、俳人もあった方を「苦海浄土」で一躍、世界的な作家にしてしまった皮肉はなんと言えばいいのだろうと思います。
そこに、「水俣の図」を描かれた丸木夫妻が、たぶん、この絵本は俊さんが主体になったと思うんですが(位里さんは人物画が得意じゃないと言ってるし、「ひろしまのピカ」もそうだったはず)、やはり絵本という媒体のためか、絵がとてもカラフルです。けれど牧歌的なおぎんとその孫おちゃらの登場から、やがて水俣病が発生して、という流れは、逆にチッソの排水が赤だの青だのの原色の色で、と言われてた「海と空のあいだに」での台詞を思い出させて逆に毒々しく、でも、それは紛れもない日本の原風景でもあったわけで、複雑な気持ちでした。
そして思うに、この狐のおぎんは、石牟礼さん自身ではないか。中盤、水俣病にかかった可愛い娘を治してほしいと言われたおぎんは、自身もおちゃらを水俣病で失っており、「わたいはおつかい 悲しいおつかい」と無力であることを嘆くのです。ああ、おぎんは石牟礼さんではない。水俣病で家族を失った全ての遺族の方々なんだなぁ。
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