原作:梁石日
監督:阪本順治
出演:南部浩行(江口洋介)、音羽惠子(宮崎あおい)、与田博明(妻夫木聡)、梶川克仁(佐藤浩市)、清水哲夫(豊原功補)、ナパポーン(プライマー=ラッチャタ)、チット(プラパドン=スワンバーン)、ほか
見たところ:新宿ミラノ3
原作といい監督といい実力派が揃ってるのに、ネタの消化不良というか、キャストのいまいちぶりというか、中途半端な一作。タイにおける子供の買春、臓器売買というネタは日本人として見逃せないものであると思うが、エンターテイメントにもドキュメンタリーにも徹せられなかった半端さが気になった。
例によってネタばれしておりますが、特に伏せません。
日本新聞社タイ支局に勤める南部浩行は、同僚・清水が発掘した子どもへの心臓移植が、生体からのものだと知り、取材を始める。金で買える命、日本人の買春ツアー、その闇はあまりに深い。同じころ、日本からタイの子ども教育のNGOに参加した音羽惠子は、そこに通っていた少女が行方不明になったことを知らされるが…。
ええとですね、いきなりラストからいきますが、南部浩行がペドフィリアだったという落ちは、まったくの蛇足だと思います。ええと、監督としてはどういう意向で入れたのか知りませんが、南部もまたタイで子どもを買春する日本人の一人にすぎない、という落ちは、それまでの南部の行動を否定するものであり、途中、南部と与田がチットに銃で脅され、取材をやめろと言われたのに、南部が「薄汚い日本人と同じだと思われたから(取材は)やめない」と言った台詞(チットには土下座したけど)に反するもので、じゃ、いままでの取材っていったい何だったのよ、ということになります。つまり、南部は忘れていたけれど、実はペドフィリアだった自分を疎ましく、あるいは後悔しており、その無意識の謝罪が命がけの取材につながった、とするには、それまでの南部の行動が「こいつ、なんか裏があるから、こんなに無茶するんだな」というキャラには見えんわけです。だから、すごく唐突、何で?とわしは煙に巻かれたんでした。ラスト、惠子に「手を離して」と言われて、いきなり少年を買春した自分の記憶がフラッシュバックされても、置き去りにされた感じのが強いです。補足的に、行方不明になったらしい南部のマンションに、与田と清水がやってきて、与田が息子だと思っていた少年が、実は全然無関係だったり、布きれで隠された壁が未成年への性犯罪の記事で埋まってたりというシーンも、全部後付にしか見えません。
さらに、音羽惠子という人物は、「アジアの子どもたちが悲しくて」タイに向かうわけですが、いったん南部と一緒に帰国します。日本の子どもの心臓移植がタイで行われ、実は生体からの移植だと知って、日本の親にそのことを思いとどまってもらおうとでもしたのでしょうか? しかし、彼女はこの梶川という夫婦にヒステリックに自分の感情をぶつけるだけで役に立たないばかりか、またタイに帰るんですけど、NGOに通っていたアランヤーという少女を助けるまではまだ良かったんですが(それにしても、エイズを発症している娘がいるのに、血を流すような傷を負って手当をしないというのはフィクションとはいえ、あまりに脳天気すぎないですかね? エイズって血液感染するんだよな? 惠子もエイズが移るかもって心配しろよ、しないだろうけど)、幾度も描写されたペドフィリアたちが通う少年少女の買春宿の摘発に、惠子のNGOが立ち会うというのは免罪符にもほどがなかろうかと思いました。途中、このNGOが集会中、ボランティアだと思っていた青年が実はヤクザな組織のスパイで、彼の発砲で集会がめちゃめちゃになる、というシーンがあったんですが、ここで惠子は「日本に帰れ」という南部に反対して、タイに残り続けるんですけど、そんな彼女にさらにお土産やらんでもええやんかと思うのです。そんなに大したキャラじゃないし。しかし、常々乳臭いと思っている宮崎あおいのキャラには、こういう青臭い娘っこはかなり合うキャラだなんて思ったけんど。
さらに、NGOのボランティアの裏切りもなんかおかしなシーンでした。集会をつぶすために発砲? だったら、自分が警官に射殺されちゃったらだめだめじゃん。
清水を演じた方、どっかで見た顔だな〜と思ってたんですが、結局、知らない人だったことが判明、うーん、誰と勘違いしたのやら。
買春宿からゴミとして捨てられた少女が、自力で脱出し、田舎で朽ちてゆく一連のエピソードはなかなか残るものがあったのですが、ずいぶん逃げたなぁ。それとも、ゴミ捨て場がたまたま郊外だっただけか?
いろいろと納得いかない映画でした。
たんぽこ通信 映画五十音リスト
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